❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
「そうなの?それじゃあお言葉に甘えちゃうけど。…あ!でも棚に返すのは私がやっておくから、三成くんは次に借りる本でも探してて」
「いいのですか…?ありがとうございます。彼方様はお優しい方ですね」
「うんうん、だってほらもうこの棚に押し込もうとした書物なんて、ちょっと変形しかかってるからね。ごゆっくりー」
(三成が書物を自ら戻そうとする事自体珍しい。……まあ彼方殿が居るならばそれも当然か。彼方殿は違った意味で三成を気にかけているようだが)
どうやら彼方殿は三成が借りていた書物の回収に向かっていたようだ。安土城の書庫管理を一任されて以来、必要な蔵書を届け、回収する【さーびす】も担っている。急務の折、俺も以前頼んだ事があったが、彼方殿が訪ねて来た事を凪がいたく喜んでいた。未だ俺を家主として認識しているあの娘は、遠慮して友人を御殿へ呼ぼうとはしない。既に凪は俺の御殿に間借りしている身の上ではないというのに、気を遣い過ぎなきらいがある。家賃は色々と便宜上都合がいいとあって、止めるつもりは今のところないが。
(彼方殿には、近々また何か御殿に届けて貰うとしよう。凪もその方が喜ぶ)
以前彼方殿が俺の御殿へ凪と【たくのみ】しに来た折に聞いた、彼方殿の【元かれ】の話題は実に興味深かった。凪の様子から、五百年後の世とこの乱世とでは、恋愛における価値観などが異なる事とは常々感じていたが、その話を耳にして色々と合点がいった。五百年後の世、凪や彼方殿の故郷は利便性に富んだ平和な国だと伝え聞いているが、男の甲斐性に関しては、あくまで俺の印象においての話だが、だいぶ失われているらしい。逢瀬の際、勘定を凪が中々譲ろうとしないのも、恐らくその辺りが要因のひとつなのだろう。
「ふう……これで全部かな。あ、三成くんお目が高い!その辺りの書物、最近入った新しい蔵書なんだよね。私もまだそこら辺読んでる途中なんだー。個人的なお勧めはこれ、【河川氾濫によって変わった地形と新たな抜け道・中国地方篇】」