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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



書物が日に焼けてしまわぬよう、基本的に書庫内の障子は閉ざされていた。夏では蒸し暑さが勝るこの場所も、秋ともなれば多少は過ごしやすくなる。奥まった棚の影で暫し書物に意識を向けていると、入り口の方から人の気配を感じ取り、視線を上げた。

「マジか、私はやっぱり魏(ぎ)派だなー。蜀(しょく)って結構英雄的な扱いとか、正統派的な感じに見られがちでしょ。そうやって持ち上げられるとちょっと意に沿いたく無くなるんだよね」
「なるほど、そのような考え方もあるのですね。私はやはり、蜀でしょうか。蜀の軍師である諸葛孔明(しょかつこうめい)殿の奇策は目を瞠るものがあります。特に赤壁(せきへき)の戦いには感銘を受けました」
「実は風向きの計算出来てたんじゃないかってやつね。船を使って突っ込んでったってのは悪く無かったよね、確かに。でも水上戦とか実際やったら大変そう。逃げ道なしでしょ」
「双方それなりの覚悟は要されるかと思います。天候にも左右されるでしょうし、正確な敵の数も把握が難しいですから」
「そう考えたら確かに呉(ご)蜀同盟もよく頑張ったよね、赤壁」
「はい、私もそう思います」

(三国の話でああも盛り上がる事が出来るのは、あの二人と信長様だけだろうな)

二人が話している内容は理解出来るが、そこに混ざりたいかと言えば答えは否だ。凪が聞いたらついていけず、終始不思議そうな表情をしている様が目に浮かぶ。元々この書庫が彼方殿の持ち場だ。それ故、あの娘がこの場へやって来るのは不自然ではないが、それは三成も同様か。奥まった位置に居る俺の存在には気付いていないらしく、二人は重々しい音を立てて何かを閲覧用の机の上に置いた。

「ていうか三成くん、書物回収も私の仕事だし、読み終わったもの戻すの、任せてくれて良かったのに」
「女性にこのような重い荷物を持たせる訳にはいきませんから。それに、新しい書物を借りて行こうとも思っておりましたので」

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