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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



ちなみに件(くだん)の領内へ間諜を放ったのは俺の独断だ。あまり表立って動いた所為で、徳川と織田の間に妙な諍いが起こっても面倒だからな。

「姫君は今宵、この安土城へ滞在するご予定だ。会談への立ち会いは俺と三成、家康で行うが、姫君は凪の調薬室にご興味をお持ちだと伺っている。城内を散策される際、もしかしたら立ち寄る事もあるかもしれないからな、先に伝えておく」
「そうか」

(織田家所縁の姫という立場でありながら、民や兵達の為に働く凪を、良家の姫は好意的に見る事もあるだろうが、その逆も考えられる。今日訪れる姫が果たしてどちらかは分からない。念の為、凪に護衛を付けた方がいいか)

城内ではあまり過剰な護衛を付けないようにしているが、仮にも他国の領地を治める大名の名代とその家臣達が城に出入りするとなれば、最低限の警戒は必要になる。午後に光忠を呼び寄せると決め、話は大まか済んだとばかりに歩き出した。秀吉もこれ以上俺にお小言を言う気はないらしい。本来進む方向であった廊下の板張りを踏みしめ、秀吉とすれ違ったところで歩みを止めた。

「秀吉」
「……何だ」

俺とは真逆の方向に足を向けようとしていたところを呼び止めると、秀吉が怪訝な顔で振り返る。軽く顔を向けたままで、肩を緩く竦めた。

「信長様の為、日夜公務に励むのは結構だが、たまには息抜きのひとつでもしたらどうだ」
「………お前が俺の心配をただでする筈がねえ。一体何を企んでやがる」
「なに、お前が非番の日は小煩いお小言を聞かずに済む。そうすれば、俺も有意義に仕事が出来ると思ったまでだ」
「その有意義な仕事の仕方が問題で、俺に毎度小言を言われてるんだろうが」
「おっと、これはとんだ藪蛇だ」

恐らく凪に言わせれば、俺も大概人の事は言えないが、この男も信長様の為に人の倍以上の公務をこなしている。その損害の程は到底計り知れないものがあり、秀吉が一人居なくなっただけで、安土城内や城下町が混乱に見舞われる事は必然だろう。

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