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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



「もっともらしい事言って逃れようとするんじゃねえ。ったく……あんな上っ面しか書かれてないものじゃ、役に立たねえだろうが」
「朝から苦労が絶えないな」
「八割がたお前の所為だ」

本能寺の件については、元より公(おおやけ)にするつもりはない。あれは俺の意思で策を練り、実行に移した事だ。織田の重臣達は容易に納得しないだろうが、裏切りの噂を匂わせておけば、それに引っかかる輩もいるだろう。謀反の芽となりそうな存在に予め目を付けておく事も寛容だ。恐らく、秀吉は俺のやり方に気付いていて、こうして目くじらを立てている。だが泥を被る役目を、この男にさせるつもりは毛頭ない。薄っすら笑みを浮かべて言葉の応酬をする俺を、秀吉は暫し不満げに見据えた後、やがて何を言っても無駄だと悟ったらしく深い溜息をついて話を切り上げた。

「……始末書の件はもういい。それより光秀、今日の午後に来客がある旨はお前も聞いてるだろう」
「ああ、確か家康の遠い親類にあたる姫だと信長様から知らされている」
「以前信長様へ献上品を贈って来た徳川に連なる大名の姫君で、床に臥せっている父君の名代として来られるらしい。先んじて届いていた文の内容からして、恐らく同盟の話を持ちかけられるだろうと信長様が仰せだ」
「遠縁とはいえ、家康の親類ならば問題もなさそうなものだがな」

本日午後から予定されているのは、以前より親交のあった大名家との会談だ。徳川に所縁のある遠縁の家柄であり、家康が信長様と同盟を組んだ時点で何かと織田との親交もみられる。中々正式な同盟に踏み切る事が出来なかったのは、治めている地域の内乱が原因だったらしいが、近頃になりようやくその件が片付いたという事だった。元々は大名本人が訪れる予定だったのだが、季節風邪を患ったという事で床に臥せり、代わりに名代として娘である姫が訪れると、数日前に届けられた文には書かれていたという訳だ。

(その話が出て以降、間諜を放ったが領内で不穏な動きは見られなかった。大名自身はさして野心のない穏やかな気性だと耳にしている。会談さえ滞りなければ、問題はなさそうだな)

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