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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



「仕事終わりに迎えに来る。今日はお前と下城を合わせられそうだ」
「本当ですか…!?じゃあ待ってますね!」
「ああ、行って来る」
「いってらっしゃい、光秀さん」

今一度身を屈めて凪の額へ軽く口付けを贈り、袴の裾を捌いて身を翻す。共に歩いて来た廊下を引き返す俺の背を、凪が未だ見送っているのを感じつつ、最初の公務へ向かう為、三成の執務室へ足を向けた。


─────────────…


凪を調薬室まで送ったその足で三成の執務室に向かう途中、前方に朝からあまり遭遇したくない姿が見え、一度歩みを止めた後、再び身を翻した。

(やれやれ、別の通りを使うか。一本向こうの廊下であれば目的地まで然程遠くはない)

「おいこら待て光秀」

素知らぬ顔でやり過ごそうと思ったが、どうにも上手く行かないものだ。朝から眉間に深々と皺を刻んだ秀吉が足取りも荒く近付いて来ると、俺は仕方なく足を止めて振り返る。今朝も相変わらず、有能な右腕殿は俺に何やら物申したい事があるらしい。

「早朝から公務とは感心だな、秀吉。では俺は用事があるので失礼する」
「三成の執務室はこの通りの先だろ。口からでまかせばっかり言いやがって。先の本能寺の一件に関する始末書が俺の執務室に提出されていたが、なんだあれは」

秀吉のお小言の種類は割と定型化している為、安易に予想がつく。ここ最近では、先日京で起こした謀(はかりごと)に関する始末書の件で口煩くしていた為、望み通りのものを提出してやったんだが、どうやらお気に召さなかったようだ。口元に笑みを張り付け、眦(まなじり)を吊り上げている男を見ると、悠然と言葉を並べた。

「渾身の出来だっただろう」
「何が渾身の出来だ、ふざけるな。まともな事なんざ何一つ書かれてなかったじゃねえか。始末書の意味知ってるのかお前は」
「既に終わった事をいつまでも掘り返すのは無粋というものだろう。何より、信長様が一連の件を把握されているのならば、一々それを改めてしたためる必要もない」

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