❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
「あ、」
あまりにも自然な所作で握り飯を持つ凪の手が引き寄せられ、軽く身を屈めた光秀がそれを一口食べた。口内に広がる塩っ気と独特の食感、そして味に咀嚼して飲み込んだ後、光秀が凪の手を優しく離す。
「塩だな」
「ぎょ、魚卵の塩漬けなので。これより辛いのは明太子って言うんですよ」
「ほう…?」
男の行動を目の当たりにし、凪の耳朶や頬が鮮やかに染まった。ぱっと光秀の方から顔を逸らし、気恥ずかしさを隠す事も出来ずに眉尻を下げた凪が握り飯を両手に持ち直して取り繕いの言葉を述べる。短い相槌を打ちながら、食よりも凪にしかあまり興味のない男の視線は彼女にしか注がれていない。指の背で赤くなった耳朶をすっと下から上ヘ撫でてやれば、軽く身を引いた凪が眉根を寄せて文句を言う。
「もう、光秀さん…!!」
「まるでそのたらこのように真っ赤になっていたものでな。食べられるか確かめてやろうと思ったんだが」
「食べられませんっ」
「それは残念」
「バカップルか!」
くすりと笑った光秀が意地の悪い色を眸に乗せて視線を凪の耳朶へ流す。流し目がやたらと様になる自称明智光秀に対し、彼女が照れ隠しで反論した。取り合う気など最初からないだろう男が小さく肩を竦める、その一連のやり取りを隣で目にしていた彼方は思わず堪えきれずに突っ込む。
「彼方様、ばかっぷるとは一体どういった意味なのですか?」
「周りの目も気にせずに睦み合う恋愛関係における男女の事」
「へえ……的を射た物言いだね」
「彼方、別に私達バカップルとかじゃないから…!」
「別に俺はそう認識されても構わないが」
「はいはい、黙っておにぎり食べててバカップル」
彼方の突っ込みを耳にした三成は不思議そうに双眸を瞬かせると握り飯を片手に問いかける。テーブルを挟んだ向かい側のソファーに佐助を含め、四人で座っている自称武将達へ視線を向け、簡潔に答えを与えれば家康が半眼で納得したよう光秀等を見た。彼方の突っ込みと説明に顔を紅くした凪が否定するも、隣に座る光秀はさして気にした様子はない。