❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
家康はおもむろに袂からいつもの小瓶を取り出し、見ている方が心配になるくらい握り飯を真っ赤に染め、それを見た三成が笑顔で、まるで梅干しのように鮮やかな赤ですね、と褒めた事も少々可笑しかった。そもそもそれは褒め言葉などでは断じてない。果ては凪の隣に座る白いイケメン、自称明智光秀に至っては、一口握り飯を食べて、美味しいですねと声をかけて来た凪に対し、たった一言、米だなと感想なのか感想ではないのか分からない事を述べたのを耳にした時には、内心で頭を抱えたものである。
(ヤバい、この人達マジでヤバくない!?確かにちょっと令和に生きてない感強いけど…さすがにタイムスリップっておいおい二次元の住人かよって感じだよね)
凪と、元々は現代人だという佐助に大方説明をされはしたが、はいそうですかとすぐ様受け入れられる程、彼方はこんなノリではあるが能天気ではなかった。眉根を寄せ、冷たい緑茶を飲んで、冷めすぎじゃない?この茶…と訝しむ面持ちを浮かべた家康に、思わずこちらが訝しい表情をしたくなった衝動に駆られた彼方は、視線を親友と自称明智光秀へ移す。
「こっちの列は鮭で、こっちはたらこって言ってましたよ」
「お前は何を食べているんだ」
「私はたらこです。乱世で中々食べられませんでしたし。半分食べてみます?」
「ああ」
真っ白な皿へ綺麗に並べられた三角の握り飯は、列毎に中身の具が異なっている。スタンダードな梅からシーチキンマヨ、鮭にたらこなど、急ごしらえの割には色々と種類を作ってくれたホテルのシェフに感謝しつつ、小さな握り飯を手にしていた凪が、光秀に二つ目を勧めた。正直中身の具には特にこだわりのない光秀は、凪が手にしているものへ視線を落とす。彼女の手には中身に紅い何かが詰まっており、それがたらこだと言う認識のない光秀は微かに眼を瞬かせた。問われた事へ答えた凪は、馴染みのないものだろうと考えて試しに、と提案する。短い相槌が打たれ、握り飯を半分にしようとすると、男の大きな掌が彼女の手首を軽く攫う。