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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



(さて、どうやっていじめてやろうか)

このまま素知らぬ振りを通し、いつ凪が言い出して来るのかを待つのも悪くはないが、それでは遠慮がちなこの娘が最後まで口を開けない可能性もある。歩幅の狭い娘の足取りに合わせ、緩やかな歩調で目的地を目指す傍ら、何処か物足りなさを感じる右手の感覚に内心で苦笑した。恐らく凪も同じ事を感じているのだろう空いた片手が躊躇いに揺れている。

「どうした、何か言いたそうな顔をしているな」
「…!」

視線を流し、隣を歩く娘の姿を映した。弾かれた様子で顔を上げ、俺と視線を合わせた凪が、不服そうに眉を軽く寄せる。

「……光秀さん、また意地悪」
「一体何の事やら」
「嘘ばっかり。だっていつもだったら……」
「いつもなら、何だ」
「う………」

(出会った頃の比ではないが、未だに妙なところで素直でない娘だ)

拗ねた声色は反面、俺に対する甘えでもある。それはとても愛らしいが、俺としては、もっとこの娘から素直に求められたい。わざとはぐらかした物言いをしてみると、躊躇いを孕んだ色の眼差しが俺の横顔に注がれ、凪が言葉を呑んだ。もうひと押しかと追い立てるような台詞を音にすると、淡い桜色の唇を一度引き結んだ凪が短く呻く。今更、何も恥じらう事など無いだろうに、些細な事でもこの娘にとっては、素直に甘えるという行為は中々に難儀なものらしい。

「その……もう少しで調薬室、着いちゃいますし」
「そうだな、突き当りを曲がればすぐだ」

暫し凪の中で葛藤らしきものが交わされたのだろう。視線を足元へ下げながら、心もとない声で切り出して来る。仄かに染まった耳朶は実にいじめ甲斐のあるいじらしさだ。とはいえ、ここで触れては先に仕掛けた意地悪の意味がないかと踏みとどまり、事も無げに述べる。瞼を伏せ、薄く笑みを浮かべた俺の横顔を見上げた凪が、着物の袖を指先で掴み、軽く引っ張って来た。

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