❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
曖昧に口元へ笑みを乗せると、隣で話を聞いていた凪が大きな眸を瞬かせる。黒く長い睫毛が上下し、発した意図を政宗に問いかけていた。
「三成が書物に集中すると飯の事も忘れて没頭するのは今に始まった事じゃないが、お前の隣に居る男もその点で言えば、同じ穴の狢(むじな)だって事だ」
「生憎と腹の減り難い質(たち)でな」
「そんな人間居る訳ねえだろ」
「光秀さんも調べ物とかするとご飯とか色々疎かにしがちですよね……」
世話焼きな政宗らしい言い分だ。この男は何かと俺や三成に対して食事の世話を焼きたがる。凪と連れ合いになって以降、その頻度こそ以前より減ったものの、こうして声をかけて来る事自体はあまり変わらない。あながち嘘でも無い事実を述べたところで、眉間を顰めた男に一蹴される。更には困り顔を浮かべた凪まで同意し始めた始末だ。食事の事となると、この二人は妙に意気投合するきらいがある。下手にこれ以上突っ込まれる前に話題を変えるとしよう。
「政宗、お前は確か兵糧の目録を確認する予定だったな。こんなところで油を売っていていいのか」
「はぐらかそうって魂胆か?ったく、根を詰めるのもいいが、飯くらいまともに食えよ」
「気が向いたらな」
「ご飯はちゃんと食べなきゃ駄目ですよ、光秀さん」
「やれやれ、お前達が食事の事で手を組むと、さしもの俺もお手上げだ」
適当な話題で政宗をその場から遠ざけようとしたが、どうやら失策だったらしい。そもそもこの抜け目の無い男を躱すには、秀吉相手にするような手では上手く事は運ばない。片手を繋いだままであった凪が、絡めた指先に軽く力を込めて訴えて来た。世話焼き二人の組み合わせは手に負えない。凪と繋いでいない方の片手を上げて降参の姿勢を取って見せると、政宗が俺を一瞥して小さく吐息に紛れさせた笑いを零す。
「昼餉に何か作って届けさせる。凪、お前の分も用意してやるよ」
「え、いいの?嬉しい…!ありがとう政宗」
「お前は素直で作り甲斐がある。楽しみにしてろよ」
「うん」