• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



そんな凪のご希望通り、曇りを避けた今日は秋晴れと呼ぶに相応しい、抜けるような青が空に広がっている。朝から賑やかな城下町を抜け、安土城へ向かう途中、他愛ない会話を交わしながら連れ合いとのささやかなひとときを楽しむ。

幾らこうして言葉を交わしていても、凪とのそれは尽きる事がない。もっとも、俺は大方この娘の話に耳を傾け、そこへ相槌を打っている事が多いが。くるくると変わる凪の表情を見ているだけでも十分楽しいが、俺には無い価値観で物事を見る娘の話には、時折感心すらさせられる事も決して少なくはない。

城に着いた後、近頃の凪は安土城内に誂(あつら)えた部屋では無く、真っ直ぐ調薬室へ向かう事の方が多い。凪を送る為、共に城内の一角へ設けられた職場へ足を向けている途中、廊下の向こうからやって来た男に気付き、隣で凪が短く声を上げる。

「あ、政宗だ。おはよう!」
「おはよう、ちょうど良かった。凪、秀吉から言伝を預かってるぞ」
「秀吉さんから?」
「あのお人好しは既に公務へ就いているのか。まったく朝から精が出る事だな」

俺達の姿を見た政宗がこちらへ歩み寄って来た。正面で足を止め、二人が挨拶を交わし合うのを眺める。安土城や城下に関する一切を取り仕切っているのは主に秀吉と、その補佐に就いている三成だが、登城して間もなく公務に励むとはまったくもって忠臣の鑑というべきか。呆れを含ませて肩を緩く竦めると、凪が窘めるように俺を見上げて苦笑する。

「今日は元々民達へ調薬室を解放する日だっただろ。午後から来客がある関係で、民達への解放は午前中までで切り上げるらしい」
「そっか、お客さんが来るなら仕方ないよね。対応出来る人数に限りが出ちゃうけど……」
「安心しろ。代わりに明日の午後、今日の分の埋め合わせをするって話だ」
「良かった…!季節の変わり目の風邪だからそこまで酷い症状の人は居ないけど、早めに対処するに越した事はないしね」

/ 800ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp