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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



(夜までには消えてしまうだろうが、あまり濃くするとご機嫌を損ねかねないからな)

親指の腹で薄い痕を撫でてやった。肌が熱を帯びると痕が僅かに濃くなる様がまた愛おしい。朝からあまりいじめ過ぎるのも良くないかと思い直し、名残を惜しんで肌から離した指先で、後ろ髪を整えてやる。鏡を視界の端で窺うと、羞恥を堪えて目元を先程よりも朱に染めている凪の姿が映り込んだ。眉間を顰めているが、それが本気で嫌がっている表情でない事くらいは分かっている為、俺は宥めるように頭をひと撫でした後で立ち上がる。

「さて、そろそろ向かうか」
「……やっぱり光秀さん、朝から意地悪」
「そういうお前は、朝から可愛いな」
「もうっ、そういうところですよ!」

何食わぬ顔で口にすると、化粧台の前へ正座した状態の凪が俺へ振り返り、頬紅よりも鮮やかに頬を染め、文句めいた事を返して来た。本心を揶揄の中に潜ませ、凪を言葉で愛でる。俺の返しが意地悪の続きと受け取ったらしい凪が声を上げる様を見つめながら、肩を揺らして小さく笑った。さて、今日も為すべき事を為す為、ひと仕事といこう。


─────────────…


秋と冬の空は澄んでいるとよく言われるが、俺にとってはさして感慨をもたらすものでもない。季節の移ろいに心を寄せる性分でもなし、天候で思う事と言えば日照り続きならば飢饉(ききん)を懸念し、雨季が長く続けば不作や河川の荒れ、悪路や土砂崩れなどを念頭に入れて動かなければならないといった、政宗に言わせれば物々しい事ばかりだ。

天候とは、ある程度適度に雨が降れば、後は晴れているに越した事はない、程度のものだが、凪は違うらしい。雨も晴れも好きだというこの娘は、曰く曇りはあまり好きではないとの事だった。何やら、すっきりしない為どちらかにして欲しいという、白黒明確なその意見に、凪らしいなと笑いを零した事は、交わした記憶の中でも比較的新しい類いのものだ。

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