❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
「凪、何故この形にしたか分かるか」
「な、何故って………もしかして!?」
含みを持たせてわざと問いかけると、視線を僅かに泳がせた凪が、鏡越しに俺を見る。何やら察したといった様子で猫目を丸々としたまま言葉を発したのを聞き、俺は口角を持ち上げてみせた。
「あまり首裏を見られないよう、気を付ける事だな」
「もう、項(うなじ)とか見えるところは駄目って言ったのに……っ」
(まあ嘘だが)
実際こうして隠すならば、痕を刻んでおけば良かったと思わなくもないが、それは後々の楽しみに取っておく事としよう。俺の思わせぶりな嘘をすっかり鵜呑みにした凪は、些か物言いたげに鏡越しで俺を見るものの、すぐに笑顔を浮かべた。
「でも髪結って貰っちゃったので、今日はお咎めなしです」
「では今後、痕をつけた時にはこうして俺が髪結いをして、隠してやるとしよう」
「う、嬉しいけど毎回は困りますからね…?」
ただ髪を梳いただけで、こうも愛らしい表情が見られるならば安いものだ。他の男の不埒な視線から凪の項も隠せる、一石二鳥な申し出が、実は俺にとって都合の良い事ばかりだと気付いていない凪の後ろ髪を指先で今一度梳き、覗いた白い項に唇を寄せる。鏡越しに窺う声など気にも留めず、俺は目の前にある柔らかな皮膚へ浅く吸い付いた。
「んっ、光秀さん…!朝からだめ…っ」
「こら、しー……あまり大声を上げると、家臣達に聞こえてしまうだろう」
過敏な白い肌を淡く吸うと、痕と呼ぶには少々心もとない華が咲く。秘された白いそこを彩る様は俺の独占欲を満たした。華奢な身を小さく震わせ、焦りと甘さの相反する感情を含ませたような凪の声が制止を促す。上擦った声が耳に心地よい。朝から何とも贅沢な事だな、と客観的に今の現状を見て思い、控えた声量で凪の耳元に囁きかける。そうすれば、面白いくらいに目の前の身体は強張り、息を潜めるように唇が引き結ばれた。