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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



朝から仕掛けた意地悪の所為で、些か不機嫌な素振りを見せた凪だが、そもそも本気でご機嫌斜めな訳ではない。照れ隠しの延長線といったところだ。その後、湯浴みに連れていき、互いに支度を済ませる頃にはすっかりいつも通りに戻っていた。今朝は光忠が朝餉の支度をしたとあり、実に味が薄く、やけに豆を推した朝餉を凪と共に済ませた後、化粧(けわい)を終えた凪の傍に向かった俺は、化粧台の前に居る娘の背後へ腰を下ろした。

「凪、櫛を貸してみろ。髪を梳いてやろう」
「いいんですか?ありがとうございます」

凪の髪を梳いてやる事は何度も経験がある為、五百年後の世の髪結いも中々に手慣れて来た。柘植(つげ)の櫛を艷やかな凪の髪へ通しつつ、今日はどんな髪結いにするかを考える。

(昨夜は特に隠さなければならない場所へ痕をつけてはいないが、無防備な項(うなじ)を他の男に見せるのは些か癪だな)

見られて困る事など無い上、この娘が誰の連れ合いであるかを示せる良い牽制代わりでもあるが、その痕を目にした男が凪で不埒な事を考えるのは我慢がならない。実際、今日の凪にはその痕こそ無いものの、暫し思考を巡らせた俺はやがて、慣れた所作で髪をまとめ始めた。凪曰く、はーふあっぷという髪型にした後、一部まとめた髪を留める為に、留め挿し用の細く黒い簪を挿してやり、その後で添え挿しの水色桔梗を飾る。涼やかな音が水色桔梗の簪の飾りから奏でられ、完成した事を察した凪が、鏡越しに笑いかけて来た。

「やっぱり光秀さんて、凄く器用ですよね…!お団子可愛いっ」
「お気に召したようなら何よりだ」
「はい!ありがとうございます」

上部の髪を丸く団子のようにしてまとめた様が気に入ったのか、凪が機嫌よく笑う。櫛を返した後、指先で後ろに流した髪を撫で、毛先をすくい上げて唇を触れさせた。鏡越しに俺の行動を目にした凪は、照れた様子で目を瞠り、目元を染める。

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