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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



代わりに親指の腹でふっくらと柔らかい凪の下唇をなぞってやると、凪はそれを軽く引き結ぶ素振りをした後、ふいと顔を逸らした。

「な、なんでもないです……」
「言いたい事を呑み込むのは身体に毒だぞ。今更遠慮する仲でも無いだろう」
「そうかもですけど……言ったら恥ずかしいから、やです…っ」
「ほう…?口にするのも憚られるような事を朝から思い浮かべるとは、お前も随分といやらしい娘になったものだ」
「い、いやらしい……!?そんなんじゃないですから…!」

朝から意地悪がつい口を衝いて出て来る。起き抜けに昨夜の何を思い返したかなど想像に易いが、羞恥で右往左往するこの娘を見るのは実に愉しい。俺の言葉で頬を染め、心を忙しなくさせる様が垣間見える程に、充足感が広がって行くのは、もはや隠しようのない事実だ。わざと口にした【いやらしい】の単語に、凪が反応を示す事が分かっていても、やはり止められそうにない。大きく瞠られた漆黒の眸に、笑みを刻んだ俺の顔が映っているのを認めて、仕上げとばかりに下唇へ触れていた親指で自分の唇に触れた。

「まあここで幾度もお前を可愛がってやったからな。俺にもその責任の一端はある」
「!!!?」

(まったく、どれだけ身体を重ねても初心な娘だ)

零れんばかりに瞠った凪の大きな眸は、朝から羞恥でゆらゆらと揺れている。淡い頬はとうに真っ赤に染まり、腕の中の体温が上昇したのが分かった。本当にこのまま非番を貰い、凪を思うさま愛でていたい衝動に駆られるが、さすがに俺もそこまで節操なしではない。

凪の身体の熱が、体温の低い俺の身体にうつってしまったかの如く、仄かに熱が灯ったのを自覚した。やはり俺の理性はこの娘の前ではどうにも形無しらしい。ふるりと羞恥に震える凪の身体は熱く、それだけでも心地よさを覚える。朝からひとつ、意地悪をした事実に胸が満たされている中、羞恥を懸命に堪えた凪が拗ねた声でいつもの文句を言った。

「光秀さんの意地悪…!!」

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