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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後



何やら怪しむ政宗などまるで気にした風もなく、光秀が包みを開けると、見たこともない色合いの細めな瓶が姿を現した。それを見せるようにして、光秀が口元へ三日月の如き笑みを浮かべる。

「これはあちらの世で戦勝祈願として飲む特別な御神水らしい。摩訶不思議な味がするとの事だが……俺では味など分からないからな。お前にも飲ませてやろうと仕入れたものだ」

(凄い光秀さん……一言一句嘘しか言ってない……!)

強いて嘘がないといえば、政宗に飲ませてやろう、くらいなものか。凪がまったく見当違いな方向で感心している中、政宗が如何にも怪しいと言わんばかりに柳眉を顰めた。この時点で家康は何かを察したらしく、半眼で嘘八百を並べる光秀を見つめている。

「……お前それ、御神水なんて言いながら、ただの酒じゃねえだろうな」
「まさか。夕餉を馳走してくれた相手を酔い潰すような真似が出来る程、俺も鬼ではないつもりだが」

(どの口が言ってるんだか……)

様々な思惑が一瞬にして満ちた室内で、凪が緊張を露わに湯呑茶碗を傾けた。そもそも政宗は客人からの気遣いを無碍にするような無粋な男でもない。五百年後の世からわざわざ日銭を叩いて買ったという品を突き返す真似など出来る筈もなく、仕方ないといった様子で空の盃を光秀相手に差し出す。それを見て、男の金色の双眼がきらりと妖しく光った。

蓋を開けると、明らかに乱世では聞く事のない、ぷしゅっ!という炭酸が軽く抜ける音が響き、瓶を傾ける。見るからにしゅわしゅわでフルーティーな香りのそれを鼻先に近付け、政宗が男らしく一気に呷った。

「………ご愁傷様です、政宗さん」

ぼそ、と実に小さな声で呟きを家康が零したと同時、空の盃を取り落した政宗がふらりと畳に伏す。

「みゃ!!?」
「わああ、政宗ー!!」

ほんのりと頬を赤く染めた主人が突如畳に倒れ込んだのを見て、照月が驚きに声を上げ、慌てて駆け寄り、ぺろぺろと政宗の顔を舐める。凪も慌てて政宗の元へ行くと、彼はすっかり意識を微睡みの中へと沈めてしまったらしい。はあ、と深々溜息を漏らす家康を余所に、光秀は一人くつくつと心底可笑しそうに肩を揺らして笑った後、瓶の蓋をしっかりと閉めて転がる政宗の横へご丁寧に置いた。

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