❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
「どうやら、照月には相当の刺激臭らしい」
「こ、これは……ハラペーニョにジョロキア、ハバネロ……ハラペーニョはまだしも……他二つは物凄い激辛の香辛料かな」
「おい、誰がこれ使って食うんだよ」
「かなりはっきりした味になりますよ」
「はっきりし過ぎて凄く舌が痛くなると思う……」
味には無頓着な光秀ですらこの激辛は如何なものか、といったところだ。さすがは辛いもの好きな家康のチョイスである。ともあれ、土産は土産。有り難く激辛香辛料を頂くとして、今度は光秀が包みの中から桐箱を畳の上へ滑らせた。
「俺からはこれだ」
桐箱の蓋を開けると、鈍色に磨き上げられた美しい刀身────もとい、包丁が現れる。光秀からの土産として差し出された為、些か警戒を滲ませていた政宗であったが、現れた美しい包丁へ驚いた様子で隻眼を瞠った。
「……へえ、こいつはいいな。かなり腕利きな職人のものだろ。食材の切れ味も良さそうだ」
「気に入ったのならば何よりだな」
「なら土産の礼に、早速こいつを使って夕餉を仕込んでやるよ。食って行くだろ、凪」
「政宗のご飯…?食べたい…!」
「みゃー!」
光秀が選んだ土産である名工の包丁を、政宗は大層お気に召したらしく、桐箱の蓋を閉めて凪へ話を振った。政宗の料理の腕は皆が知るところなので、当然凪も嬉しそうに頷けば、刺激臭から若干解放されたらしい照月も同意を示すように明るく一声鳴く。せっかくだからと家康が買って来てくれた香辛料の内、比較的オーソドックスなハラペーニョを使って夕餉の支度をしようとする男が立ち上がったのを見て、凪が慌てて声をかけた。
「あ、政宗!私も何か手伝おっか?」
「お前は五百年後の世から帰って来たばかりで疲れてるだろ。大人しく照月と遊んで待ってろよ」
「みゃ」
何だかんだ気遣いを覗かせてくれる政宗の言葉に甘える事として、三人と一頭は暫し、政宗が夕餉の支度をしているのを待つ事になったのだった。