❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
ここには五百年後の世のように便利な鉄の駕籠(かご)も月より明るい照明も、褥より柔らかな寝具も何ひとつとして存在しないが、光秀には凪が居る。これから先も、ずっと──────。
「まあ、焦るつもりもない。この先、たっぷりと刻はあるのだからな」
互いが互いを離さない限り、この幸せな刻は延々と続いていく。穏やかな声で紡いだ光秀が、瞼をそっと伏せた。白い肌に長い睫毛の影が小さく揺れる、幾度見ても飽きる事のない美しい姿に目を奪われ、凪がはにかんだ。肯定の代わりに光秀が触れている手へ自らのそれを重ね、互いの熱を伝え合う。ちまきが不思議そうに首を傾げ、何かを悟ったように丸めていた身をぐぐっと伸ばすと、優雅な足取りで庭先を降り、静かにその場を立ち去った。
「……さて、信長様へ土産の品を渡すついでに、秀吉達の無事を確かめに行くとするか」
「ついでって……またそんな言い方して」
すり、と親指の腹で頬をひと撫でした後、瞼を持ち上げた光秀がいつもの調子で告げる。くすくすと微かな笑い声を漏らし、男に促されるまま凪も立ち上がった。城へ持ち込む土産の品を布へ包み直し、光秀が大きな包み、凪が小さな包みを持って襖の方へ歩き出す。
「皆、喜んでくれるといいですね…!」
「ああ、政宗には五百年後の摩訶不思議な水だと伝えて渡す事としよう」
「もう……絶対後で怒られますよ」
「あの男がどんな反応をするのか、見ものだな」
部屋を出て襖を閉ざした後、どちらからともなく指先を絡めるようにして手を繋いだ。いつもと変わらぬ御殿内で、ほんのりいつもと違う会話を楽しげに交わしながら、光秀と凪の二人は並んで廊下を歩いていったのだった。
了....?