❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
ある意味不幸中の幸いというべきか。安土武将が謎の失踪、という物々しい議題が軍議に上がっている訳ではなさそうだと安堵し、凪がちまきの身体を優しくひと撫でした後、縁側にある草履を引っ掛けて庭先に置かれている荷物まで歩いていった。同じく光秀も庭先に降りると、荷物を多く持ってやる。二人でそれぞれ持った荷物を縁側へ置き、その中からスマホを取り出した凪が、動画ファイルの中から一つのデータをタップした。
「最初はどうなるかなって思ったけど、何だかんだ言って楽しかったなあ。光秀さんとも沢山思い出作れましたし」
動画の内容は、資金繰り目的で行ったストリート殺陣(たて)アクトのものであった。時折彼方の素の突っ込みが紛れているそれを停止して、画面をオフにする。凪が改めてしみじみと呟き、光秀へと笑顔を向けた。彼女の言葉に応えるよう、男が口元をそっと綻ばせると、ちまきが紙袋の中身を不思議そうにくん、と鼻を動かして嗅ぐ。
「そうだな。惜しむらくは、あちらでゆっくりとお前を愛でられなかった事か」
「う、そういうのは……口にしちゃ駄目なんですっ」
「今更隠す事でもないだろう」
久々に親友と会えた事、皆で現代を満喫した事、何より光秀に戦の無い平和な世の在り方を見せられた事。乱世では四半刻にも満たない間に、現代で沢山の思い出が出来た。喜びや楽しかった思い出を噛み締めているような彼女へくすりと笑みを滲ませ、光秀が冗談とも本気とも付かぬ事を言えば、途端に凪の頬は甘い桃色へと染まる。拒絶ではない、どちらかといえば羞恥が覗く言い草にしれっと返した後、おもむろに光秀が片手を伸ばした。
横髪を優しく梳き、耳へかけてやる。大きな掌で片頬を包んでやれば、まだ高い陽の光を浴びて凪の、少し恥ずかしそうな笑顔が目映く輝いた。それは最後の夜に見た花火よりも華やかで目が離せない、光秀だけの光だ。