❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
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「──────………、凪」
「……ん、」
揺蕩(たゆた)う意識の中、耳に馴染むしっとりとした低音が凪の鼓膜を揺らした。肩へ壊れ物を扱うかの如く触れた片手はひんやりと冷たく、心地よい。伏せていた瞼をゆるゆると震わせ、そっと持ち上げた凪の視界には、ふと目映い日中の陽射しと共に、細くすらりとした真っ白な鼻先が映り込んだ。明らかにもふもふしているそれは声の主のものではなく、別の癒やし系の生き物であるとすぐに気付く。未だ少しばかりぼんやりした思考を振り切って、凪はゆっくりと上体を起こした。
「………んん、あれ、ちまき…?」
「目が覚めたようだな、寝坊助」
凪の両腕に手を添え、起き上がるのを傍らで支えてくれていた光秀が、穏やかな声で告げる。片膝をついた体勢でいる男の傍には真っ白なもふもふ─────もとい、ちまきが居て、まるで凪を心配しているかの如く鼻先を片手に擦りつけていた。ぱちぱちと幾度か瞬きをした後、ようやく鮮明になって来た意識にはっとした様子を見せ、片手でちまきの頭を撫でてやりながら光秀を見上げる。
「ま、まさか今までのって全部夢オチ……!?」
寝坊助、と言われた事が気にかかったのだろう。加えて、凪達が居たのは光秀の御殿の縁側であり、傍には飲みかけの茶器が置かれている。光秀と二人、茶を楽しんでいる時にちまきが訪れ、可愛い姿をスマホで写真に収めていた、というのが乱世での直前の記憶である。光秀があまりにも自然な姿で居る為、てっきり現代で過ごしたあれやこれやが夢だったのでは、と疑わしくなったらしい彼女へ、光秀は色気の滲む唇に笑みを浮かべた。
「いや、どうやら夢ではないらしい。あれを見てみろ」
「あ!……もしかして向こうから帰る時に持って来た荷物…?」
「そうらしいな」
光秀が視線で指した先には、五百年後の本能寺跡石碑まで共に運んだ荷物が置かれていた。庭先の地面に黒い紙袋が幾つか整然とした様子で立っている様は、些かシュールである。