❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
狼煙や花火は、光秀達乱世に生きる者達にとっては物々しい理由が伴う。それが吉であれ凶であれ、物事を判断する為に空を見上げる事は決して珍しい事ではない。だが、戦の無い五百年後の世の者達は、そんな不穏な理由で空を見るのではなく、そこに咲く大輪の花を愛でる為に視線を向ける。それはとても幸福な事であり、光秀がいつの日か目指す世の形だ。
不意に、空から視線を逸らして光秀が隣に立つ凪を見る。ぱっと暗闇に散る美しい花火に視線を奪われている彼女の横顔は、空で光が弾ける度にほんのりと淡く照らされていた。嬉しそうに輝く黒々した眸と、薄っすら紅潮した頬、綻んだ淡い色の唇。それ等を視線でひとつひとつ辿り、光秀が金色の眸を柔らかく眇める。
(夜空に咲く大輪の花も悪くはないが)
柵の上に置かれている小さな彼女の片手に、自らの手を重ねた。ひんやりとした熱を感じ取った凪が光秀の方を振り返る。視線がぶつかったと同時、彼女が夜空の花火にも負けない大輪の花を咲かせた。
「光秀さんと一緒に見れて、嬉しいです」
溢れる素直な言葉に、光秀の口元も自然と弧が滲む。柵の上で指先同士を絡めるようにしてぎゅっと繋ぎ、光秀が軽く身を屈めた。それと同時、ドン!と再びけたたましい音が響いて、一際大きな菊が夜空に咲き乱れる。余計な色など一切ない、真っ白な花火が暗闇を目映く照らす間際、掠めるように唇を重ねた。
(俺にとっては、手を伸ばせばすぐに届く、傍に在る花の方が余程愛らしい)
五百年を越えた先に見た、人々が笑顔で空を見上げる世。凪という最愛が育まれたその地に立てた事を、幸福に思う。
いつか、いつの日にか────誰もが命を脅かされる事の無い世を作り上げる為、光秀はあるべき場所へと帰る。それが凪と共に二人歩む、光秀の掲げた唯一にして絶対の、果たすべき義なのだから。