❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
「こちらの世では、星以外にも人々の導(しるべ)となるものがあるのか」
雲の掛からない乱世の夜にはいつも星があった。五百年の時を越え、改めて空を見上げた時、星の姿があまり見られなくなっていた事に少々落胆した事も事実である。けれど、この争いの無い世では、空に色とりどりの美しい花が咲く。自分達が知るものとはまるで姿形、色の異なる花火は、あの綿あめを作り出す絡繰りと同じように、誰かを喜ばせる為に作られたのだろう。美しいものは、人の心を慰める。今はこの場に居ない浮世離れした男が口にしていた意味を、兼続は五百年の時を越え、初めて心から理解した気がした。
「わあ…!久々に見たけど凄い!綺麗ですね光秀さんっ」
「ああ、見事なものだな」
ドン、ドン!と次々打ち上げられる花火には様々な種類があって、万華鏡と呼ばれる形のものや、千輪と呼ばれる、小さな花火が幾つも同時に開くものなど、主に花の名に例えられた花火達が暗い夜空に華やぎを添える。赤や青、黄色、緑、橙色に白、幾つもの色合いが輝く夜空はとても美しく、今が現代である事をしみじみと実感させた。久し振りに見る大輪の花火を前にして、凪が些か興奮した様子で光秀を見上げる。空へ視線を向けていた彼は、何も無い夜空に弾ける様々な色を前にして、小さく応えた。
「花火って不思議なんです。何度も見ている内に物珍しさなんてなくなる筈なのに、こうやって上がってるのを見ると、ついつい足を止めちゃいます」
「こうも見事に咲いていては、知らぬ振りを通すのも忍びないだろう」
花を愛でる趣味も、庭を眺める趣味もない。美しいものを美しいからと観賞する事に感慨を抱かない光秀の目にも、闇に咲く様々な色の花火は文字通り美しかった。花火が消えると一瞬辺りは暗く沈み、再び打ち上げられる音と共に大輪の花弁を惜しげもなく広げる。その合間、一度にこうも沢山の火薬を打ち上げる技術があるとは、などと片隅で考えている己に内心苦笑を零した。
(空に上がるものは、吉報か凶報のいずれかばかりだと思っていたんだがな)