❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
「でも、打ち上げる習慣は昔からあったんですね」
「そういう事になるな」
火縄銃などの普及に伴い、明から伝えられた火薬が日ノ本に普及した事は凪もよく知るところだが、こうして実際に娯楽の一種となったのは江戸時代からだ。まだ乱世では、空に咲く大輪の花を見た者は誰も居ない。こうして現代の世にひょんな事からやって来て、様々な偶然が重なり、今がある事がとても貴重であるように思えて、凪は紺色に塗りつぶされた空を改めて見上げる。刹那、ドン!と腹の底を震わせるような大きな音が響き渡った。
「あ、始まったよ!」
「何か大筒みてーな音だな」
「原理が少し似ているからかもしれない」
「こらそこー、物騒な話題禁止」
彼方が一際明るい声を上げる。夜闇の空を裂く低いその音は、武将達にとっては少し物騒な音に聞こえたのかもしれない。些か身構えた面々の中、素直な感想を漏らした幸村に対し、佐助が解説を加える。窘めるような声を彼方がかけたと同時、夜空に目映い大輪の菊が咲き誇った。
「これは……とても美しいですね……!」
「ああ、見事なもんだ。信長様に御見せ出来ないのが悔やまれる」
「あれが花火……想像してたのと全然違う」
細い尾を引いて夜空に上がった美しい大菊は、中央から黄色、赤、橙色と様々な色の輝きを帯びている。三成が素直に感心したよう呟き、秀吉が同意した。珍しいものを好む信長が、もしこの光景を見ていたなら、安土に花火師を呼んで似たものを作らせようとしたかもしれない。光秀がいう通り、乱世の花火はあくまでも火薬が弾ける狼煙代わり。こんなにも色とりどりなものであるなど、想像もしなかったのだろう。家康がしみじみと呟いた後、続けてドン、ドン!とけたたましい音が鳴り響いた。
菊の後に牡丹が続き、花弁の色が変化する変化菊と呼ばれる種類の花火が幾つも連続で打ち上げられる。ぱっと花を咲かせ、少しずつ輝きを失いながら夜の闇に消えて行く様は、まるで星が生まれる瞬間のようだ。枝垂れ柳のように火薬が放物線を描いて落下していく様を暫し見つめ、兼続が小さく呟きを零す。