❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
財布は女性のものであったらしく、大事そうにそれを胸に抱くと何度も礼を言ってその場を立ち去っていった。あっという間に持ち主へと返却された財布に、もはや呆気に取られる事しか出来ないでいた男が呆然としていると、次いで人混みから兼続が追っていた白いTシャツの男が姿を見せる。光秀に未だ片腕を掴まれている相方を見て、顔を一瞬で青褪めさせた男が即座に身を翻そうとすると、その退路を兼続と佐助の二人がおもむろに塞いだ。
「な、何なんだてめえ等……!?」
仲間の一人は光秀によって拘束され、自身は前後共に逃げ場がない。完全に追い詰められた袋の鼠状態である事に苛立ちと焦燥を紛れさせ、引ったくりが自棄になって声を荒げた。ちなみに佐助の背後には、兼続がここまで追い込んだ男が盗った財布の持ち主の姿があり、言い逃れは出来ない。
「ほら、盗ったもんちゃんと返せよ」
幸村が再び臆面も無く距離を詰め、動揺で動けないでいる男から財布を取り返すと、それを持ち主である女性へ返した。ここまで来てしまえば男達に抵抗の意思はもはや無く、ひとまずコンビ引ったくりの一件を見事解決した様をぐるりと見回し、佐助が眼鏡のブリッジをぐい、と軽く持ち上げる。
「話せば長くなりますが…通りすがりの戦国武将です」
斯くして、賑やかな祭りの影でひっそりと行われた捕り物は、必要以上の騒ぎになる事もなく、密やかに事態は収拾されたのだった。
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「引ったくり犯捕まえるとかヤバいんだけど。武将頼りになり過ぎじゃない?ま、無事解決して良かったね」
「うん、光秀さんも皆も凄く格好良かったよ…!」
「惚気ね、はいはいバカップル」
「もう、違うから…!」
二人の引ったくり犯を祭りの警備の者へ丁重に引き渡した後、凪達は当初彼方達と示し合わせていた通り、川沿いの時計下に集まって無事合流を果たした。密やかに、とは言っても一部でそれに関する話題は多少広まってしまっているのか、ちょっとした騒ぎにはなっていたらしい。