❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
「なに、わざわざ名乗る程の者ではない。じき貴兄の仲間もこの場へ訪れる事だ。それまで大人しくしていて貰おう」
「一般人がサツの真似事かよ…!ふざけんじゃねえ…!」
この暗がりを抜ければ祭りの会場となっている川沿い付近の通りを抜け出せる。ここから逃れる事が出来れば、自分を追える筈もないと思っていた男が、光秀の人を食ったような物言いに青筋を浮き立たせつつ、怒りと焦燥に任せて声を荒げた。そうして飛びかかるように拳を振り上げ、光秀へ間合いを詰めるも、武将たる彼にそれこそ一般人の攻撃が通る筈もない。ぱしん、と乾いた音を立てて振り抜かれた拳を片手で掴み、ぐいと捻り上げる。
「い、痛って……───────」
「しー……静かに。あまり声を上げると祭りに訪れている客達に気取られてしまうだろう。それは貴兄にとっても都合が悪いと思うが、違うか」
男が振り上げて来た右の拳をあっさりと掴んだ光秀の片手は、ちょうど二人の身体が影となっている事や、光の届かない暗がりとあって端からは見えない。痛みに呻く男のそれを半ば強制的に遮ると、光秀が敢えて低めた声で囁きかけた。女性客の財布を引ったくった時、男は彼女に顔を見られている。加えて後を追って来ていた幸村と佐助の件が引っかかり、光秀の言葉に揺さぶりをかけられた男が言葉を呑みかけたと同時、金色の双眼がそっと後方へ流された。
「そちらの首尾はどうだ、幸村殿」
「おー、今佐助がもう一人の方向かってる」
「それは何より」
「!!?」
光秀が視線を向けた先に居たのは、浴衣姿の女性を連れた幸村であった。光秀の問いに応えた幸村が、動揺で短く息を呑み、身動きの取れないで居る黒いTシャツ姿の男へ無遠慮に近付いていった。そうして予め佐助が見抜いていた衣服の下、挟むように腰へと差し込まれていた長財布を手に取ると、女性へ振り返る。
「これで合ってるか?」
「ありがとうございます…!!助かりましたっ」
「次は盗られねーよう気をつけろよ」
「はい…!」