❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
下手な騒ぎを起こさず、目立たない形で引ったくり犯と決着をつけるという光秀を信じ、凪は雑踏からほんの少しだけ離れた暗がりで目を凝らした。
「……あ、あの人」
「どうやら上手く網にかかったらしい。凪、お前はここに居ろ。すぐに戻る」
「はい……気をつけてくださいね」
「ああ」
程無くして、些か焦燥を滲ませた一人の男が人混みの中から姿を現した。彼の背格好を見る限り、最初に引ったくりを仕掛けたらしい黒いTシャツの男の方である。幸村と佐助に追われていると自覚しているのか、彼はしきりに背後を気にして暗がりの方へ歩き出した。それを至って冷静に眺めていた光秀は、口元に刻んだ笑みを薄っすら深めた後で凪と繋いでいた手をするりと離し、念押しの如く告げる。光秀に限って無いとは思うが、凪が心配そうに声をかけると鷹揚に頷き、男が歩き出した。
「くそ…っ、あいつ等もう追って来てねえよな」
黒いTシャツの男が如何にも煩わしそうに眉間を顰めて背後を再び振り返った。腰の辺りを異様に気にする素振りを見せ、短く吐き捨てた後、ちょうど光秀達が身を潜めていた暗い出店の影へ向かおうとする。しかしその刹那、じゃり、と地を踏みしめる微かな音が響き、男があからさまに驚いた様子で肩を跳ねさせた。
「おやおや、こんな暗がりにわざわざ足を向けるとは、何か後ろ暗い事でもあるのか」
「な、なんだてめえ…!!?」
わざと足音を立てて男へ近付くよう歩みを進めた光秀は、その背で凪の姿を隠して立ち止まり、余裕めいた笑みを口元へ滲ませる。対して突如目の前に現れた光秀の存在に驚きを示した男が声を荒げ、及び腰になった。けれども、後方の人混みへ逃げたところで、いつ幸村と佐助がやって来るか分からない。じりじりと仕方なく後退する相手へ一歩、また一歩と距離を詰めれば、光秀が緩く首を傾ける。暗い中でぼんやりと輪郭を露わにする彼の姿は、まとっている真白な装束の所為もあって些か不気味に思えた。