❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
納得した様子で頷く凪を余所に、幸村と佐助が静かに動き出す。あまり大仰に動くと相手に余計な警戒をさせてしまいかねない。
「とりあえずさり気なく横についてあの人の荷物を確認しよう」
「分かった、行くぞ佐助」
「了解」
突然ひったくり犯として相手を捕まえると、余計に目立ってしまう。確実性を選んで慎重に動く事とした佐助と幸村の二人が人混みの中へさり気なく紛れていくと、光秀が指摘した男の傍へ近付いた。男は元々手ぶらであったらしく、特に鞄の類いを持っていない。けれども、乱世で忍びにジョブチェンした佐助の目は誤魔化せなかった。男の右腰元、そこに不自然な盛り上がりがあり、ちょうど長財布の形状と似通っているのを見て取り、心配そうに見守る凪へ佐助が視線を向けて来る。薄いレンズの向こう、三白眼を必死に両目でぱちぱちと瞬きしている様に気付き、アイコンタクトを受けた凪が光秀を見上げた。
「光秀さん、やっぱりあの人で間違いないみたいです」
「ああ、そのようだな」
ウィンクが出来ない佐助から送られた、両目の合図を伝えると、男が小さく笑って肩を揺らす。そのままひったくり犯を拘束かと思いきや、突如別方向からも甲高い悲鳴が響いた。
「引ったくりーっ!!!」
「ええっ!?」
「どうやら仲間と示し合わせていたらしい。凪、これを」
「は、はい…!兼続さん、どうするんですか?」
佐助と幸村が張っている男とは別の場所が騒然とする。連続で起こった引ったくり事件と思わしきそれに、つい凪が目を丸くしていると、それまで騒ぎを静観していた兼続が胸下で緩く組んでいた腕を解き、凪に梅干しの壺を渡して来た。咄嗟に受け取り、片腕で落とさないようにすると、彼女の問いに兼続は至って真面目な面持ちで応える。
「盗っ人を野放しにしておくわけにもいかないだろう。その壺は謙信様へ献上させて頂く大事な梅干しだ。丁重に扱うように」
「分かりました、落とさないようにしますね」
何だかんだ言いながら看過するつもりのない兼続が、念押しのように告げた。