❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
「誰かそこの男捕まえてー!!」
「!!?」
「祭りの定番、引ったくりか」
「呑気に言ってる場合かよ、ったく…相変わらず緊張感がねーな」
びく、と小さく凪が肩を揺らしたと同時、光秀がすぐに道端へ彼女の身を追いやった。賑やかな喧騒が突如として物々しいものになり、佐助が至極冷静に述べる。殊のほか近い距離感で聞こえて来た女の悲鳴に近いそれに、幸村と兼続が視線を巡らせた。ざわめく人混みは悲鳴によって若干のパニック状態となっており、一瞥しただけでは誰がひったくり犯か分からない。凪を背に庇った状態で、光秀が金色の双眸を静かに巡らせる。やがて、動揺を見せる人々の中から一人の男を探し当てると、切れ長の眸を眇めて口元へ弧を描いだ。
「あそこか。佐助殿、幸村殿、盗っ人はあの黒い着物の男だ」
「なんで分かったんですか…!?」
喧騒の中へ自然と溶け込み、さも無関係を装っている黒いTシャツを来た男を視線で光秀が指し示す。騒ぎを最初から追っていた訳でもないというのに、すぐ様ひったくり犯をこれだけの人の中から見つけた男へ、凪が驚きと感心が入り混じったような声で告げた。僅かに背後へ振り返り、背に凪を軽く庇った光秀が口元へ小さな笑みを浮かべる。そのまま切れ長の眸を男ヘ流し、悠然と告げた。
「なに、簡単な事だ。周りの喧騒に対して、あの男は妙に落ち着き払っている。一件へ無関心だとしても、多少は動揺するものだろう。どちらかと言えばあの表情は、早くこの場から立ち去りたくて、気が多少なり急いているといったところか」
「な、なるほど……光秀さんの人の心を読む技は現代でも健在ですね」
「乱世だろうが五百年後の世だろうが、悪党の考える事は然程変わらないだろうからな」
いっそ無関心過ぎるその様が、光秀には却って不自然に映ったという事だ。確かに周りをよく見ると、人々は忙しなくきょろきょろと周囲を見回しているのに対し、黒いTシャツの男は脇目も振らずに人波を縫っている。