❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
凪が口にした品名は半分程も理解出来ていない幸村が、彼女の隣に居る光秀へ胡散臭そうな眼差しを向けた。
「お前は何買ったんだよ、明智光秀」
「俺か。俺は信長様へ白わいんと呼ばれる酒とそれを召し上がっていただく為の器、政宗には名工の包丁と口の中が弾ける酒だな」
「えっ!?やっぱりあのスパークリングワイン、政宗にだったんですか…!?」
「ああ、面白そうだろう」
「包丁は喜びそうだけど、あのワインは絶対怒られる……」
幸村の問いに光秀が特に抵抗もなく口にする。主君たる信長は当然として、仲が良いとされる政宗にも土産を買っていた事は知っていたが、まさかあの政宗相手に酒を買うとは。スパークリングワインコーナーをしげしげと眺めていた折、店員に勧められるがまま二人で試飲したそれが、確かに強炭酸系のスパークリングワインであったな、などと思い返した凪が苦笑を浮かべた。口の中で弾ける炭酸は当然として、味わいはフルーティーにも関わらず度数が見かけによらず高いそれを、政宗が飲んだらどうなるか、それは推して知るべし。
実に愉しげな様子でくつりと笑った光秀を傍目に、兼続が瞼を伏せる。普段淡々としてあまり笑みを浮かべる事のない兼続の口元に、薄っすらと微笑が浮かんでいる事から、若干光秀と同じ気配を凪が感じ取った。
「独眼竜はああ見えて下戸だからな」
「あいつ下戸なのかよ、見えねー」
「驚愕の新事実」
幸村と佐助にまで、うっかり政宗の下戸が知れ渡ってしまったなど本人は知る由もないだろう。
(……政宗、今頃乱世でくしゃみとかしてないかな。光秀さんの悪戯を阻止するのは難しいし、力になれなくてごめんね政宗…!)
光秀の悪戯の手腕は折り紙付きだ。阻止しようものならば、凪も同じく被害を受けかねない。心の中で謝罪を述べ、凪が一度ぎゅっと瞼を閉ざした。ちなみに、信長への土産として挙げていたワイン用の器、とはワイングラスの事だ。