第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後

光秀では多分ちょっと似合わないだろうな、などと考えながら笑いかけると、当の本人に憮然とした様子で返された。

「凪、それは一体どんな菓子なんだ」
「バームロールは、ふわふわした生地が何層も輪状に重なった焼き菓子ですよ。絶対美味しいと思います」
「ほう？」
「凪さんと光秀さんは何を買ったの？」

片手で軽く凪の腰を抱き寄せ、さり気なく自らの傍に彼女を寄せると、光秀が何気なしに未知の菓子について問いかけて来る。確かに幸村の言う通り、乱世では絶対に御目にかかれない菓子だ。抹茶味という事で、チョコレートなどのいかにも西洋菓子っぽい風味よりは、口に合うかもしれない、などと凪が考えながら彼に説明すれば、光秀は短く感心した様子で相槌を打った。土産談義に発展したついでに、と佐助が話を振って来る。凪が向き直り、思い出すように指折り数えて並べた。

「えーと、信長様にはいたおみきクッキーでしょ。慶次にはあられづつみで、蘭丸くんには白桃のピューレ、仲の良い女中さんには無添加の豆乳石鹸買って、光秀さんの御殿の家臣さん達にはつじりの里を買ったよ」
「信長様へのお土産がユーモラスに溢れているな。お酒を注ぐ入れ物にクッキーが入っているのは中々斬新だから」
「出来るだけ日持ちするものって考えたら、生菓子系は手が出しにくくて…蘭丸くんのピューレは早めに食べるように伝えなきゃ」

いたおみきクッキーは佐助の言う通り、枡の中にサイズ感がぴったりの酒粕を使った薄焼きクッキーが入っている焼き菓子だ。堺でもクッキーは味わえるが、現代のものとなると食感や味もすべて異なるだろうと選んだものである。ちなみにあられづつみは玉子煎餅で醤油あられを包んだもので、餅好きの慶次に合わせて選んだ。蘭丸の桃ピューレは言わずもがな、彼の好物であるそれをふんだんに使ったジューシーでみずみずしく、自然な甘さのピューレである。女中相手に美容品を買って帰る辺りが何とも女性らしい。