❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
その様子を傍で見守っていた光秀が、凪が視線を巡らせている意図を察すると、川沿い方面にある高い時計を指して声をかける。
「あの刻を刻む絡繰りならば分かりやすいだろう」
「あ!そうですね、じゃああの時計の下で待ち合わせしようって伝えておきます」
光秀の言葉に顔を上げ、凪が軽く双眸を瞬かせた。提灯で周囲がぐるりと飾られている時計はそれなりの高さであり、灯りも相俟って遠くからでもよく見える。周辺に同じようなものがない事を確認し、光秀へ笑いかけてから再び端末へ向き合った。花火開始十分前位に、川付近の時計下で落ち合う旨を一報する。すぐに既読がつかないところを見ると、恐らく取り込み中なのだろう。後々落ち合う約束をしている以上、友人は連絡の確認を疎かにする性格ではない為、凪はそのままスマホを巾着の中にしまい、改めて光秀を見上げた。
「連絡しておきました。花火が始まる少し前になったら、あの時計下に行きましょう」
「ああ」
「時間まであと少しあるし、何処か見たいところとかあります?」
「お前の方こそ、他に気になるものはあるのか」
「うーん、そうですね……」
待ち合わせ場所を決めた事を伝え、他に気になるものが無いか問いかける。けれども光秀としては、凪の行きたい場所が自分の連れて行ってやりたい場所だ。彼女が関わっているものを除き、食にも物にも特別興味や関心のない光秀の返答はこういう時、いつも決まっている。問いを問いで返され、凪が首を捻って考えた。光秀が少しでも現代を満喫してくれるものはなんだろう。そちらの方面を優先して思考を巡らせていると、不意に二人へ覚えのある声がかけられる。
「あ、凪さんに光秀さん」
感情の起伏があまり感じられない平坦な声色へ意識を向けると、人混みに紛れる形で顔見知りの姿が視界へ映り込んだ。