❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
ふと男が彼女の名を呼ぶ。ぱち、と瞬きした後で視線を隣に立つ男へ一度投げるも、伸ばされた光秀の片手がすり、と柔らかな頬を撫ぜた。途端、驚きと照れで彼女の指先が小さく震える。
「力を入れすぎだ」
穏やかな声で短く紡がれ、緊張で強張っていた身体から力が抜けた途端、引き金に引っかかっていた人指し指が自然とそれを引いた。パンッ!!と何度目かになる発砲音の後、コルク弾が狐の頭に当たり、ころりと若干重々しくも後ろへ転がって落下する。それを目にして双眸を瞠り、銃を片手に凪が体勢を戻して光秀へ向き直った。
「やったあ落ちた!光秀さん、今の見てくれてました?」
「ああ」
「おめでとう、イケメンな彼氏に感謝だねえ」
「はい、ありがとうございますっ」
嬉しそうにしている凪へ笑みを浮かべ、頷いて見せた光秀の傍らで、店番の男が景品である白い狐のぬいぐるみを台の上に置いてくれる。白い狐と黒猫、大きさも割とちょうど良い二つのぬいぐるみを目にした後、凪が店番へ笑いかけた。その様を見ていた光秀がさり気なく彼女の手を握り、するりと指の腹で手の甲を撫でる。
「残り五発で幾つ落とせるか見ものだな、凪」
「コツ掴んだし、次は一回で落としますからね」
「それは楽しみだ」
彼女の意識をすぐ様自分の方へ引き寄せ、光秀が何事も無かったようにわざと挑発してみせた。偶然と言われればそれまでだが、ひとまず目当ての景品を落とせた事でそこそこの自信を付けた凪が言い切る。くす、と鈴を転がしたような小さな笑いを零し、台の上に置いていた銃を男が手にした。かち、と微かな音を立てて装弾した銃を自然な所作で構えながら、光秀が口角を持ち上げる。凪も共に再び銃を構えて、ほとんど同時に引き金を引いた。
「射的楽しかったですね…!小さい子達も喜んでくれてましたし」
「品物はほとんど童(わっぱ)達に渡していたが、良かったのか」
「はい、私は光秀さんが取ってくれた猫と狐が居るので」
「そうか」