❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
相変わらず耳元へ男の吐息が掠める度、どきどきと鼓動が早鐘を打ち出してしまう。思わずびく、と震えてしまいそうになる身体を必死に叱咤して、銃口を定める事へ集中しようとした。背後に感じる男の低い体温と、肩を抱くような体勢に照れくささを覚えるが、今は白い狐を落とす事が先決だ。懸命に邪念を振り払い、光秀が示した狙いに向かって凪が引き金を引く。
パンッ!!思い切って引いた引き金により、コルク弾が勢いよく発砲された。先程までとは違い、真っ直ぐに狐のぬいぐるみへ向かって行くそれが、頭部に当たってぐらりと揺れる。
「あ、当たった!当たりましたよ光秀さんっ」
「今の一発は悪くなかったな」
「ちょっと後ろに傾いたし、もう一回当たれば落ちそう」
「ならば今度は一人で狙いをつけてみろ」
初めてのヒットに興奮した様子の凪が、すぐ背後に居る光秀を振り返った。大きな猫目をきらきらと輝かせて無邪気に喜ぶ姿は愛らしく、つい男の口元が綻びをみせる。人の命を奪うものではなく、単に遊戯だからこそ楽しめる。喜んでいる彼女に対し、わざわざ水を差すような真似を光秀がする筈もなく、褒めるように片手で頭をさらりと撫で、抱きしめていた体勢から元の位置へ戻り、棚の上の狐へ視線を投げた。先程の一撃のお陰で、ぬいぐるみは軽く後方へ傾いている。尻尾の付け根がちょうど支えになってしまっているのか、中途半端な状態で止まっていた。
「次こそ当ててみせますからね」
「やれやれ、ここに来てようやく本気を見せるという訳か」
「今までのも全部本気なんですけど…!」
光秀に狙いを付けるのを手伝って貰ったとはいえ、一発当たった事で自信を見出した凪が次弾を装填して銃を構える。店番の男もここまで来るとなんとなく応援したい心地になり、頑張れよ!と彼女へ声をかけた。笑顔で応える凪へ揶揄を投げれば、むっと眉根を軽く寄せた彼女がちらりと男を見る。けれどもすぐに真剣な眼差しで目当てを覗き、受けた助言を反芻しながら銃口を定めた。
「凪」