第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後

「何を緊張している。狙いの付け方を指南してやっているだけだろう」
「急にだったからびっくりしただけです……あとあの、耳元であまり囁かないでください……っ」
「この距離で言葉を交わす事など、それこそ慣れていると思うがな」
「な、慣れないです……！」

明らかに意識してしまっている凪の様子に口端を吊り上げ、つい意地悪に興が乗る。低く囁くような声色は無駄に色めいていて、ぞくぞくと腰から背筋にかけてせり上がる感覚に息を詰め、凪が耳朶を薄っすら染めながらぎゅっと瞼を閉じた。光秀のこういった意地悪は確かに割といつもの事だ。だからといって慣れるなどという事はなく、いつだって彼女の鼓動は忙しなく脈動を打ち続ける。言葉と同時につい指先へ力が入ってしまい、特に狙いを定めないまま、トリガーが引かれてしまった。パン、と音が響き、コルク弾が狐とはまったく関係ないマーブル色をした細い筒状の容れ物の菓子に当たり、ころん、と転がる。

「あ！」
「ほう、目を瞑っている方が獲物に当たるとは、やはりお前は奇妙な才を持ち合わせているらしい」
「何だか凄く複雑な気持ちです……」

店番の男が二人のやり取りを見て笑い声を上げ、菓子を黒猫の横に置いてくれた。子供の頃によく食べた駄菓子の類いは懐かしく、けれども素直に得た事を喜べる心境ではない。再び弾を装填し、今度こそ意識を銃口へ集中させて狙いを定めた。目当てから覗き込んで白い狐の頭部を狙う。狐の尻尾が割とふっくらして大きい為、下部に当ててもバランスを崩させるには難しいだろう。

「脇を締めた方が振れが少なく済む。弾が落下する分を含めて考えると…──────」

耳元で低く落ち着いた声が響いた。光秀に言われた事を意識し、まるで本物の銃でも習っているような心地になりながら、体勢を整えた。長くしなやかな指先が銃身に触れ、銃口を軽く上向きにさせられる。軽いコルク弾は直ぐに失速してしまう為、真っ直ぐ狙っては上手く的に当たらないという事だろう。

「この辺りが妥当といったところか」
「は、はい…っ」

（み、耳に光秀さんの息が……っ）