❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
凪が自分の姿に見惚れていたなど、光秀はとっくに気付いている。橙色の提灯の灯りを帯びた頬が、ほんのり朱に染まっている様を目にして男が口元を綻ばせた。さすがに店番の男が近くに居る上、他の客達の目もあるとあって、これ以上からかいはしないが。話を切り替えるようにして声を発した彼女へ相槌を打ち、景品がずらりと並んでいる棚へ視線を向ける。棚は三列あって、それぞれに光秀からして見れば、珍妙な品々が並んでいた。問いかけを受けて視線を巡らせていた凪が、一点を見て黒眸を瞠る。
「私、あれ狙います…!」
凪が指し示したのは、ちょうど二人の正面辺りに置かれている、最上段の景品だ。二頭身程にデフォルメされた白い狐が、ちょこんと座っている形の、掌サイズ位のぬいぐるみである。大きさも程よく、重さもそこまでなさそうな印象のそれならば、落とせるかもしれないと踏んだのだろう。意気揚々と宣言した彼女を見て銃身を肩に乗せた体勢のまま、男が片手を顎へあてがった。
「この銃の威力が何処までかは分からないが、他の品に比べれば軽そうではあるか」
「はい、光秀さんは何を狙うんですか?」
「俺か、そうだな」
景品を落とすという点を重要視するとなると、重心が偏りがちなものや、元々不安定なものの方が落としやすそうだ。凪に問われ、金色の眸を棚へ投げた光秀は、ふと端に置かれていたものに目を留めた後、ちゃきと微かな音を立てつつ銃を構える。あまりにも自然な所作で構えの姿勢を取った事にどきりと鼓動を跳ねさせ、凪が双眸を瞠った。
(構えてるのは玩具の銃だけど、見た目が割とリアルだから、なんだか戦場に居る時みたい……)
玩具の割に意外と精巧な作りをしているコルク銃の所為もあり、光秀が銃をこうして構えている姿を見ると、乱世で戦に出ている時の事を思い出す。格好が日頃見慣れた装束だという事もあるのだろうが、何だか不思議な感覚がして、つい凪は狙いを定める為の目当てに片目をあてがった男の、端正が過ぎる横顔を見つめた。