❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
パンッ!!と隣でコルクが発射された音が響く。茶色の弾は最上段の棚に置かれている、丸い筒状の菓子へと見事にヒットした。しかし、衝撃でぐらりと軽く揺らぎはしたものの、それは落下する事なく再び揺れを収める。
「わあ……惜しい!あとひと押しって感じでしたねっ」
「実弾でないとはいえ、思いのほか飛距離はあるようだな」
落ちなかった景品を前に、凪が残念そうに声を発した。隣に居る光秀を振り仰ぎ、手にした状態の銃へきゅっと力を込める。二発目のコルク弾をもはや慣れた様子で装弾し、光秀が若干感心した様子で零した。玩具というから、さしたる威力や飛距離もないと踏んでいたらしい。当然本物の種子島とは比べるべくもないが、銃として機能しているそれの銃身を指先で軽くなぞる。
「案外飛びますよね。でも物を落とすっていう勢いにはちょっと足りないかも?」
「そうらしい。だが、おおよそは把握した」
「え?把握?」
ひとつひとつの仕草がいちいち色めいている恋仲を見て、どきどきと鼓動を逸らせながらも凪が頷いた。距離はそこそこだが、その間に勢いが殺されてしまう為、上手い位置に当てないと、中々品物の重心をずらす事が出来ない。軽く頷いてみせた光秀が短く告げたと同時、再び銃をすっと構える。相変わらずすらりとした所作が美しく、白い着物の袖が緩く揺れる。銃口を狙いへ定め、やがて引き金に長い指先をかけた。
パンッ!!再び小さな破裂音に似たそれが響き、コルク弾が発射される。光秀の撃ったそれは、先刻狙ったものではなく、その隣にあった二頭身の黒猫のぬいぐるみに向けられていた。首に水色のリボンを巻いた黒猫は、ちょうど凪が狙おうとしている白狐と同じ位のサイズ感である。
「あっ」
銃口から放たれたコルク弾が猫の頭部へ当たった。ぴんと立った二つの三角耳のちょうど真ん中を撃ち抜かれ、ぬいぐるみがぐらりと後方へ傾く。やがてそれはまるでスローモーションのように倒れ込んで、棚の後ろへと転がり落ちていった。
「やったあ!落ちましたね、光秀さん!」
「おめでとさん!これが景品だ」
「ああ、済まないな」