❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
未知の単語が彼方から飛び出すも、バスの窓から眺める景色を目の当たりにして、ここが本当に五百年後の世なのだとしみじみ実感した武将達は佐助の引率によってバスを下りて行く。
「俺達も下りるとしよう」
「はい」
秀吉達が下りた後、おもむろに光秀が立ち上がった。すらりとした長身の男が、凪へ声をかけてあまりにも自然な所作で片手を差し出す。大きな節立った手へ小さな凪の手を重ねると、そっと男がそれを繋いだ。一週間弱などではない、まるでもっと長い日々を二人で過ごして来たような雰囲気を滲ませる所作に、彼方は内心首を捻った。乗る時とは異なり、今度は男が先んじて通路を歩き、凪を優しくいざなう。果たして自分の知らない間に、何が起こったのか。そっと湧き上がった疑問へひとまず蓋をしつつ、彼方もバスを下りたのだった。
───────────────…
勝手に開いた自動ドアに衝撃を受け、眩いエントランスに広がる大理石の床と壁に息を呑み、果てはエレベーターに乗った際に感じる独特の浮遊感に身を硬くした中、最も家康が驚いたのは、まさにホテルへ足を踏み入れた直後だった。
(…………涼しい)
バスの中でも思った事だが、ホテルは実に涼しく初冬の如き過ごしやすさである。佐助の説明によれば、気温を調整する絡繰りによって涼しさが保たれているらしく、正直これならば読書が進まない暑い夏であっても快適に過ごせると密やかに感銘を受けていた家康だった。
「それにしても驚きました。凪様のご友人である彼方様は、一城の主でいらしたのですね」
「ああ、女の身でこれだけ立派な城を構えるとは大したもんだ。安土城にも引けを取らない見事な造りだな」
「というか、完全に安土城より上ですよね」
五百年前と五百年後の建造物を比べるのは如何なものかと思うが、武将達の素直な感想というやつだろう。心無しか三成が彼方へ向ける目線が輝いており、そこに尊敬の念が込められている気がしてならないが、家康はそれを敢えて黙殺した。