❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
ふと前方の席に座っていた佐助が振り返った。反応が怪訝な三人とは異なり、異様に落ち着いている事から一般的常識はありそうだと判断した彼方が視線を向けた。代わりに凪が応えてくれて、佐助に向けて首を傾げる。
「このバスは何処に向かっているのかと思って」
「あーそっか、説明してなかったね。ごめんごめん、向かってるのは私のホテル。多分もうちょいで着くよ」
「私のホテル…って事は、彼方さんはもしかして…」
「うん、咲坂グループの一人娘。社長令嬢なんだよね」
「令嬢でーす」
「凪さんに驚きの交友関係ありってところか」
行き先を案じた佐助に対し、彼方が実にフランクに説明した。彼女の言い分を耳にし、眼鏡の奥で微かに双眼を瞬かせた佐助の疑問を更に解消すべく、凪が付け加える。よもや凪がかの咲坂グループの令嬢と友人関係だったとは。イメージとしてよく想像されがちな令嬢とはかなり種類の異なる彼方だが、明智光秀の家紋を一発で見抜いた辺り、通じるものが密かにあると感じた佐助は、頼もしい助っ人へ胸をそっと撫で下ろした。
「凪【ほてる】とはなんだ。御殿の名か何かか」
「ホテルはえーと、宿みたいなものですよ。多分びっくりするくらい大きいです」
「ほう…?」
ざっくりとしたホテルの解説を耳にし、納得した様子の光秀を横目で見た彼方は、ますます募る疑問に眉根を寄せた。程なくして見えて来た自身が両親から経営権を譲り受けた【HOTEL SAKISAKA】を前にして吐息を零す。まあ話はホテルに入ってからでも良い。時刻は深夜三時を回ろうとしていたが、驚きと突っ込みの連続で眠気などとうに吹っ飛んでいた。
「はい、到着ー!取り敢えずバス下りてエントランス入ったら、エレベーターで二十五階まで上がってくれる?何か訳有りっぽかったし、二十五階のワンフロア全部貸し切りにしたから」
「ありがとう彼方!」
「まさに至れり尽くせりだ。ありがとう、彼方さん」
「はいはいどうも。取り敢えず行こう。もう夜遅いから静かにねー」