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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後



凪が明るい声を上げた。陳列棚の下部に、乱世でよく見られる狐面を見つけて光秀を振り仰ぐ。狐の顔を象ったそれは、水色や黄色で顔の模様が描かれていて、凛とした表情をしていた。白は光秀を連想させる色だ。着物や袴といった装束の観点もあるが、気高く気品のあるその清廉な色は、彼の隠された優しい心や真っ直ぐな信念をよく表しているような気がする。彼女の言葉を耳にし、光秀が視線を棚へ滑らせた。そうして、その中で視界に映ったものへ金色の双眸を眇めると、おもむろに口を開く。

「では、さしずめお前はこの黒い仔猫といったところだな」
「嬉しいですけど、こんな可愛くていいのかなあ……」
「ほう…?俺の見立てを疑うのか」
「そんなんじゃないです。自意識過剰になりたくないだけというか」

光秀が指したのは狐面の上の段にある黒い仔猫の面であった。くりくりとした大きな目と三本の髭、頬は丸いピンク色を差していて、何かの猫のキャラクターをデフォルメしたようなものだ。見た目の可愛さに思わず面食らった凪が、些か自信無さげに眉尻を下げると、光秀が笑みを浮かべたままで片眉を持ち上げる。何処か愉しそうな表情の男を見上げ、凪が緩く首を振って否定した。店番の老人相手に声をかけ、光秀が黒い仔猫の面の代金を渡し、受け取ったそれを凪の頭へ斜めにつけてやる。

「わ、ありがとうございます!じゃあ光秀さんも」

あまりにも自然な所作で面を買い、凪へ付けてくれた光秀のスマート具合にそれこそ面食らうも、彼女はすぐに巾着から小銭を取り出して同じく店番へ声をかけた。先刻彼を連想した白い狐面を買い、乱世のものよりもずっと軽いプラスチック製の面を受け取って、男へ振り返る。

「屈んでください。私がお返しにつけます」
「狐におねだりとは、豪胆な仔猫だな。取って食われる懸念くらいは持ち合わせておいた方が身の為だぞ」
「私の知ってる狐さんは凄く意地悪だけど、凄く優しいので」
「やれやれ」

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