❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
「も、もう…!光秀さんっ」
「どうした、頬が林檎のように熟れているぞ」
「誰の所為だと思ってるんですか…!」
眉間を寄せて照れ隠しの声を上げる。とくとくと早鐘を打つ鼓動は忙しなく、全身に血液を惜しみなく巡らせていた。夏の暑さだけでは片付けられない熱が湧き上がり、繋いだ手にきゅっと力を込める。文句を言われたところで何処吹く風な男が、笑みを浮かべたまま視線を横へと流した。確信的な流し目へ唇を引き結び、反論すると余裕を滲ませた言葉が返って来る。
「さて、誰の所為だろうな」
分かりきっている返答を耳にし、凪がますます頬を染めた。光秀の手にかかれば、どんなに未熟な果実でもすぐに紅く甘く熟してしまう。それを甘んじて受け入れている自分が居る事を自覚しながら、凪が光秀に向かって林檎飴を差し出した。二人で齧り合った赤い実は、最初に買った時よりも随分と歪な形をしているが、それでも香り立つ甘さは変わらず、むしろいっそう濃くなっているようにも感じられる。
「じゃあ責任取って、余さず全部食べてくださいね?」
「元よりそのつもりだ。他の者に譲るなど、今更考えられる筈もない」
差し出されるままに甘い実を齧り、飴を彼女の手からそっと奪うと、光秀が凪の口元へとそれを運んだ。照れくさそうにしつつも、何処か愉しげな彼女の言葉へ促されるままに、光秀が囁く。男が差し出した飴を、凪が齧った。口内へ広がる甘さと仄かな酸味は、二人で共に実らせる、恋の味がした気がした。
「あ、お面屋さんだ」
林檎飴を二人で味わった後、暫く歩いた道の端にずらりと面が並ぶ出店を見つけて、凪が声を上げる。格子状の棚へ横に並んだ面が四列、アニメや洋画、ゲームのキャラクター、人気マスコットや動物の顔を象った様々なものが陳列されている様を、光秀は些か物珍しそうに見つめた。乱世では到底見る事の出来ないラインナップに、凪が小さく笑う。