❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
「……光秀さん達が、日々一生懸命お仕事してくれているお陰です。安土の皆だけじゃなく、日の本に居る乱世の皆が必死に生きて繋いで来てくれたからこそ、今があるんですよ」
凪が穏やかな声で告げた。乱世で暗夜を照らしていた、月よりも明るい光が生み出された事には、きっと意味があるのだろう。今目の前に広がる景色を見て、改めて無意味な事などなにひとつ無いのだと思い知らされる。己の心血を注いだ行為が、凪の穏やかな笑顔を育んだ世に繋がるのだと思えば、いっそその泥臭く虚実に満ちた生き方ですら、誇らしく思えた。凪は照れくさそうに笑って手元の林檎飴をかり、と微かな音を立てて齧る。おもむろに片手を伸ばした光秀が、彼女の小さな手を包み込んだ。そのまま林檎飴を持つ凪の手を引き寄せて、甘い果実と飴を齧る。
「綿菓子が俺に似ているといったが、ならばお前はこの林檎飴に似ている」
「え?どんなところが似てます?」
軽く咀嚼して飴と果肉が溶けて行くのを飲み下し、光秀が静かに口元へ緩やかな笑みを浮かべて告げた。包み込んでいた凪の手を離すと、彼女は好奇心を露わにして問いかけて来る。大きな猫目がじっと自らへ注がれているのを見て、光秀がくすりと小さく笑った。伏せた長い睫毛の影が、提灯の灯りを帯びて男の白い肌へ落ちる。
「癖になる甘さもそうだが」
しっとりして低く潤った声が鼓膜を揺らした。恋人繋ぎで絡めた手を軽く引き寄せ、光秀が身を屈める。そうして、凪の唇へ自らのそれを優しく触れ合わせると、口付けを贈った。ちゅ、と微かに触れ合う音が短く届き、凪の頬が提灯の橙色に照らされて紅く染まる。
「こうして口付けると、そっくりだろう?」
僅かに離れた唇の隙間から吐息が零れ、凪のそれを掠めた。間近にある金色の双眸が意地悪く眇められると、ますます彼女の頬は紅潮して、手にした林檎飴と同じ色になる。身を遠ざけさせる間際、呆然とした凪が持つ飴を、再びかりっと齧って何事も無かったかのように平然とする男の横顔を、彼女が数拍遅れてむっと睨む。