❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
「お前のように、頭に花でも咲いていそうな者なら、そうかもしれないな」
「それって思いっきり馬鹿にしてます?お菓子ですぐに機嫌が直る、みたいな」
「この菓子を見た時、仔犬のように反応して尻尾を振っていただろう」
わざと煽るような言葉を選んで投げかけると、凪が容易に釣れる。子供っぽいと思われる事が嫌なのか、不服そうな彼女の手元にある菓子へ視線を落とし、揶揄を紡いだ。綿あめだ、と口にした時の弾んだ声はとても無邪気で、今まで聞いた事がなかった所為か、やけに兼続の耳に残った。
「そ、そんな振ってませんよ…!兼続さんこそ、これ食べればきっと尻尾振りたくなります」
「俺にそんなものは生えていない」
「食べればそんな気分になります」
慌てて否定した凪が、手にした綿あめをちぎって差し出して来る。白い指先に掴まれた、ふわふわした水色の固まり。触れれば壊れてしまいそうな程、見るからに柔らかそうな菓子へ、兼続は手を伸ばす事を躊躇った。尻尾が生えるかどうかは別として、彼女の手にある、繊細なそれへ触れる術を持たない兼続が、けれど心遣いを無碍にするのも、と心の中で葛藤しかけた頃、凪がぐい、とそれを彼の唇へ近付ける。
「後学の為ってやつですよ、兼続さん」
「…………はぁ……」
「え!?そんなに嫌でした…!?」
「光秀殿の苦労が目に浮かぶな」
「なんでそこで光秀さん…!?」
まったく悪気の無い凪の言い草に、兼続が顔を逸らして深々と溜息を漏らした。眉間を顰めて瞼を閉じる相手へ、驚いた彼女が焦燥を見せると、兼続が薄い瞼を持ち上げて視線を投げる。凪と恋仲である男の苦労が手に取るように分かるな、と胸中で零し、一度緩慢な瞬きをした後で、兼続が彼女へ向き直った。そうして、ぱくりと細い指先から水色の綿あめを食べる。
(わっ、食べてくれた…!)
形の良い唇がふわふわの菓子を食べたのを見て、凪が目を瞠った。自分から差し出したものの、あれだけ盛大な溜息をついていた事もあって、食べてくれないと思ったのだ。