❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
研究好きと聞いていた事もあり、ああいった機械系にも興味があるのだろうなと思いつつ、凪が首を捻ると、無言で綿あめ製作の工程を見ていた兼続が、ぽつりと音を発した。
「………子供達を、喜ばせる為だろう」
「え?」
小さな声が機械音の合間に届き、凪が双眸を瞠る。隣に立つ兼続の、まるで彫刻のように整った横顔を見つめた。ちらりと目線だけを凪へ寄越した男が、一度瞼の裏に理知的な眸を隠し、溜息と共に告げる。
「少なくとも、大人を主体で喜ばせる為だけに考えついたとは思えんな」
「確かにそうですね…!だって初めて見た時は凄い不思議でしたもん。子供なら尚更そうだと思います。………もしかして兼続さん、これを越後で作れないかなとか、考えてます?」
「…今の越後には娯楽が少ない。学びの息抜きになるものくらいは、あって然るべきだと思ったまでだ」
「こういう機械は難しいかもしれないですけど、その内もっと色んな美味しいお菓子が作れるようになりますよ。そういうのを食べるだけでも、十分気分転換になると思います」
五百年後の世に身を置いていても、兼続は常に越後の地を思っている。元より真面目な人だとは思っていたが、提灯の橙色に照らし出された生真面目で理性的な横顔を見て、ますますそう感じた。これから先も、乱世はこの現代へ向かって少しずつ変わって行く。今よりも砂糖の価値が少しだけ下がり、一般庶民にも気軽に流通するようになって、沢山の和菓子の原点が生み出されるだろう。それを子供達が食べて、寺子屋で学び、健やかに育つ時代がいずれやって来る。困難は数え切れない程あるけれど、一歩一歩がそうして歴史を紡ぎ、今の世へと繋げているのだ。
凪が笑って告げたそれを耳にし、兼続が機械から視線を逸らして身体ごと彼女へ向き直る。呑気な笑顔だ、と思うと同時にこの時代の豊かさを痛感した。自らこの地へ立って思い知る、身分なき弱き者が蹂躙される事の無い世界。些か奇抜で理解の及ばない文化も存在するが、それでもこの世が兼続には眩しく見えた。