❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
「兼続さん…!」
通行の邪魔にならぬようにと道の外れに寄り、道行く人々を眺めていた兼続は、凪に声をかけられて視線を流した。目元をほんのりと紅く染めている彼女を見ると、片手に水色のふわふわした菓子を手にしている。ちぎられた所為で形は多少いびつになっているが、未だ割り箸に巻かれた菓子は柔らかそうだ。果たしてあの絡繰りからどのような仕組みで、こんなふわふわした菓子が出来上がるのか。春日山城下で見世を開いたら、瞬く間に人気処になりそうだな、と片隅で考えていた兼続が、些か呆れを眸へ過ぎらせた。
「走ると転んで菓子を落とすぞ」
「そんな間抜けじゃないです」
「無知とは恐ろしいな。お前が間抜けでなければ、大抵の者が賢人扱いだ」
「そんなに!?」
兼続の前に立った凪へ注意を促すと、些かむっとした様子で眉根を寄せる。この人混みでは転んだが最後、歩いている者達の踏み台になる未来しか見えない。溜息混じりに告げれば、凪がぎょっとした表情で目を瞠った。
(本当に表情が良く変わる女だ)
凪の双眸を見つめ、兼続が心の中で言葉を零す。心を偽る事も無い、あるがままの感情を表に出す凪の姿は兼続にはとても眩しく映った。自分にないものを数多持っている彼女を見ていると、自分の醜悪さが浮き彫りになるようで心が軋む事もあるが、それでもこの大きな猫目に見つめられてしまうと、視線を逸らす事が出来なくなってしまうのだ。
「兼続さん、綿あめ食べました?」
「いや、味よりもあの絡繰りの構造の方が気になる」
「綿あめの機械、不思議ですよね。初めて作った人は、どういう気持ちで作ったんだろ」
緩く首を振った兼続が否定する。二つ買った内、彼方から一つ渡された佐助がそれを開け、淡い黄色の綿菓子をちぎって幸村と家康へ半ば無理矢理渡していた姿を見たのは、つい先頃の話だ。藤の眸を向けて機械を見た兼続が述べる。ゴオッ、と音を立てて機械が動き、店番の男が割り箸をくるくるして行くと、再びふんわりしたピンク色の綿菓子が作られた。