❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
彼が差し出す水色の菓子をぱくりと食べる。まるで光秀の心をそのまま渡されたかのように、口内へ迎え入れた菓子は一瞬で溶けて凪の中でひとつになり、舌先に甘さだけを残した。
「……綿あめって、光秀さんみたい」
「……ん?」
「ふわふわしてて正体が掴めなくて、食べたら一瞬で溶けて無くなっちゃうのに凄く甘くて、もっともっと欲しくなるから」
凪に綿あめを食べさせた指先を、光秀が軽く舌先で舐めた。掴みどころが無くてするりするりと指の間をすり抜けて行くのに、優しい甘さはとても癖になる。けれど、凪だけはその甘さの正体を知っていた。光秀の底が無い優しさと愛情は、彼女へ真っ直ぐにいつの刻も注がれているのだから。凪が零した言葉に、男は甘やかな微笑を浮かべた。白い着物や銀糸が人工的な灯りに照らされ、美しく輝く。
「ならば、飽きないように度々味を変えるとしよう。お前が何度もその唇で求め、手を伸ばしたくなるように」
軽く屈んで鼓膜へ囁きを落とした後、光秀の唇がそのまま彼女の耳朶を軽く食(は)む。びくりと肩を跳ねさせて、ばっと相手から距離を取った凪が、真っ赤に染まった目元をそのままに、綿あめを持つ手とは反対の手で甘噛みされた耳を覆った。乱世よりも明るい現代では、彼女の火照った肌が例え夜であってもよく見える。煩い鼓動を持て余し、唇をぎゅっと引き結んだ後、その場を凌ぐように告げた。
「ほ、他の人達にもあげて来ます…!」
誰も彼も祭りを楽しんでいる為、目撃者はそう居ない。けれども人前で耳を噛まれた事に羞恥を感じ、駆け出してしまった彼女の背を見て、光秀は小さく肩を竦めた。
「やれやれ、逃げられてしまったか」
足を向ければすぐに捕まえられる距離に、未だ目元を染めた凪が居る。溜息混じりに零しながら瞼を伏せた男は、今一度自らの親指を赤い舌先で軽く舐めた。微かに残る綿あめの甘さは、まるで彼女の唇の味に似ている。飽きる事の無いその味へ微笑し、光秀は緩やかな足取りで歩き出したのだった。