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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後



店番の男へ硬貨を支払い、少女が所望したピンクの綿あめを取ってあげた母親が、仕方無さそうに笑って手渡す。紅葉のように小さな両手で袋を抱きしめた少女は、先程までの不服そうな表情から一変、満面の笑顔になって礼を言う。母親と手を繋ぎ、片手で抱え直した、小さな身体には些か不釣り合いな綿あめの袋を持って親子は祭りの人混みの中へと消えていった。

「今の童女(わらめ)のように、駄々をこねていたという訳か」
「多分そうだったんだと思います。だって、お祭りの中に綿あめ屋さんっていっぱいあるのに、それを一軒ずつ回ったんですよ。水色の綿あめ欲しさに」

親子の背へ視線を流していた光秀が、凪へ向き直りながら口角を持ち上げる。小さな少女にかつての自らの姿を重ね、彼女が眉尻を下げながら笑って頷いた。心のままに何かを求め、どうしてもと駄々をこねる、そんな凪の姿を脳裏に描き、光秀は長い睫毛をゆるりと閉じて吐息混じりに舌先へ音を乗せる。

「……愛らしいな」

忙しいだろうといつも遠慮をして、あまり光秀自身へ負担をかけまいとしている凪が、心のままに我儘を言って求めて来る姿を見てみたい。求めるものはいっそ何でもいいが、それが光秀自身であったならば、もはや言う事は何も無いのだが。そんな感情を乗せた短い一言へ、彼女が不思議そうに大きな猫目を瞬かせた。凪が手にしている水色の綿あめを、光秀のしなやかで長い指が一口分、ちぎる。それを自らの口へ運ぶのではなく、凪の淡い桜色の唇へ近付け、男が双眸を眇めた。

「この唇で求められたら、どんなものでも与えてやりたくなる。水色の綿菓子であろうと、あるいは俺自身であろうとな」
「っ………」

ふわ、とちぎった綿菓子が唇に触れる。甘く掠れた声で囁きかけた光秀の眸が、真っ直ぐに凪へ注がれている所為で鼓動が速まり、指先が甘く震えた。男の眸には一片の偽りも見つからない。光秀は凪が本当に望むならば、それこそどんなものでも差し出すのだろう。そのあまりにも大きく、底の深い愛を前に、凪は切なさで呼吸が苦しくなったような気がした。

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