❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
楽しそうな凪の問いへ、食べたままの感想を述べた光秀が舌先へ残る甘さを飲み下した。残りの綿あめを食べると、再びそれが口内で溶け、すぐに消えて無くなる。信長の好む金平糖とも異なる、優しく甘いそれは見た目こそ綿のようだが、その実とても儚いもののように感じられた。凪も自分の分をちぎって食べると、途端に面持ちを綻ばせる。幼い頃の記憶がふと蘇って、酷く懐かしい心地になった。
「美味しいっ!やっぱり懐かしいなあ。昔は色の種類があんまりなくて、でもどうしても水色が欲しいって我儘言ったの、思い出しちゃいました」
「ほう…?水色は珍しいのか」
「私が子供の頃は白が基本で、あとはピンク…えーと桃色だったりとかが多かったような気がします。色んな出店回って、やっと水色の綿あめ見つけて買って貰った時は嬉しかったなあ」
幼い頃は些細な事でも気兼ねなく我儘が言えて、それで両親を困らせた事もあった。何故子供の頃、水色の綿あめにこだわっていたのか分からないが、今ならばそれがいっそ運命であるかのように思えてしまう。
(こんなに水色が特別な色になるなんて、乱世に行くまで思ってなかったもんね)
彼女の口から幼い頃────現代で過ごした過去の事を聞くのは少々珍しい。この時代に未練があると光秀に心配させてしまうからか、あまり積極的には話そうとしない凪の幼い頃の話に耳を傾け、光秀の口元は微かに綻んだ。
「やだあ!ピンクがいいの!ピンクじゃなきゃや!」
不意に綿あめの出店の近くで、四つ位と思わしき幼い少女が母親の腕をぎゅっと掴んで手を引き、駄々をこねていた。母親が取ろうとしていた綿あめは白いものであり、その隣にあるピンク色の菓子を指差して丸い頬を思い切り不服そうに膨らませている。
「分かった分かった。ピンクにしてあげるから、駄々っ子しないの。はい、落とさないでね」
「わーい!ありがとうママ!!」