❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
ふと少し前に告げられた幸村の言葉を思い起こし、家康が内心で苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。無防備なまま、自分に対して銃を構えようとしない凪相手に、家康が銃口を向ける事など出来る筈もなかった。否、それ以前に。
(そもそも、好きな子相手にそんな事出来る訳ないだろ)
とはいえ敵同士な以上、何も行動を起こさない訳にもいかない。こうなったらいっそ、凪に自分を撃たせるか。しかしそれは何となく光秀の思うつぼな気がして正直面白くはない。家康が思考を巡らせている間にも、凪は光秀から耳打ちされた助言を思い出していた。
───凪、もし俺が離れている時に家康か兼続殿、秀吉のいずれかと鉢合わせた場合は。
【残り八人ー!】
アナウンスが聞こえて来たと同時、凪が意を決した様子で家康をじっと見つめる。大きな黒々した眸で見つめられ、彼が軽く目を瞠った。
「い、家康……」
「なに?」
「……私の事、撃つ?」
「!?」
まるで追い詰められた小動物みたいな眼差しで見つめられ、紡がれた言葉に家康が虚を衝かれる。不安げな表情で居る目の前の凪を、どうして無情に撃てるのか。そんな事が出来るならそもそも出会い頭に撃っていた。
───相手の目を見てこう言えばいい。自分を撃つのか、とな。
よもや思いっきり光秀の術中などとは露知らず、家康が困窮した様子で否定を紡ごうとした刹那、新たな気配が凪の背後から現れて、しっとりした低音をその場で響かせる。
「隙有り」
ばしゃ!!とあまりにも無情な水音が響き、凪の後方から放たれた水が家康の首筋へ当たった。
「わあ!?家康…!大丈夫!?」
【残り七人ー!】
アナウンスがフィールドへ響くと同時、凪が慌てて家康の元へ駆け寄る。片手の甲でぐい、と首筋の水を拭った家康が、心配そうな表情を浮かべる凪の頭を軽くぽんと撫でて背後へ半眼を向けた。