❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
障害物から躍り出た光秀は、散らばった幾つかの気配を察して視線を巡らせる。さすがに素人相手とは異なる為、気配の消し方もなかなかに上手い、が日常的に暗中飛躍している光秀の察知能力は尋常ならざるものであり、如何に名のある武将と軍神の懐刀と言えども、その感知を逃れるのは至難の技というものだ。その中で、一つの気配が側面の障害物へ移動したのを感じ取り、微かに口角を持ち上げる。そこには光秀が仕込んだ唯一にして最大の罠があり、意図せず誘い込まれた何者かへ薄い瞼を伏せた。
(さて、状況的に同じく俺と同じ囮役として名乗りを挙げるとすれば、忍びである佐助殿と、負けず嫌いな家康辺りか。秀吉は俺以外を撃つ事に躊躇いを抱くだろう。兼続殿は恐らく…)
思考を巡らせたと同時、銃口が向けられた気配を察知して光秀が身を翻す。じゅっ!と短い音を立てて水が砂浜を抉り、振り向き様に引き金を引いた。光秀の後方にある木箱、角度的に考えてそちらの方向から飛んで来たと推測しつつ、水を放つ。次いで後方から感じる気配に眸を眇め、飛んで来た水を避けるように身を屈めた。砂を蹴って一度傍にあるサーフボードの裏へ隠れた後、人指し指と親指をくわえるようにして一度短く高い指笛を鳴らす。
「では早速一人狩るとするか」
短く零すと同時、光秀が身を隠していたボード裏から姿を覗かせた。狙いを木箱の影から撃って来た者へ定め、距離を詰める。砂浜に残る足跡へ視線を投げ、逃げおおせた方向を推測すると、行き着いた丸太の影へ銃口を定め、一度引き金を引いた。だん、とおよそ水らしからぬ音が響き、そのまま再び距離を詰め、丸太の影へ回り込むのではなく、片手をついて軽々それを飛び越える。
「くっ…」
「これはこれは佐助殿、このような場所で奇遇だな」
飛び越えがてらに片手で銃を持ち、容赦なくトリガーを引く光秀へ佐助が短く声を詰まらせ、身を回転させる事で攻撃を避ける。世間話でもするような体で声をかけて、下り立ったと同時にまたしても水を放った。