❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
あるいは何か機を窺っているのか。そんな風に男の思考を探ろうとする凪へ視線を合わせ、光秀が微かに口角を上げる。
「なに、あまり俺が狩り過ぎてもつまらないと思ってな」
「え!?そういう理由…!?」
「目論見通り、煽られた者達が互いに動き出しただろう?」
「確かに……さっきも二人減ってましたね」
凪の表情を読んだのだろう男が、簡潔に答えを与えてくれる。実は先程減った二人は、家康と兼続が仕留めたものなのだが、さすがにそこまでは預かり知らぬ事だ。下手な消耗戦はせず、余力を残して本隊を叩く。まさに戦の定石である。
「三成くんと彼方、大丈夫かな」
「ああ見えて三成はかなりの切れ者だ。彼方殿を守る事など造作もないだろう。あるいは、彼方殿の方が逆に三成を補助している可能性も十分にあり得る」
「なんかそれは凄く想像出来ます。でもそうなると、私ちょっとかなりお荷物感が拭えないんですけど……」
木板に背を向けた状態で隣り合って言葉を交わす。普通に話をしているように見えるが、凪はともかく光秀はそうして先程から気配を探り、索敵していた。軽く走った所為で乱れた彼女の前髪を指先で梳いてやる余裕がある程、光秀にとっては実に造作もない戦である。凪が些か気落ちした風に眉尻を下げて笑うと、前髪から指先を離した男が流れるような所作で頬に触れ、金色の双眼を微かに眇めた。
「いや、そうでもない。お前には後々、大事な役目があるからな」
「私に大事な役目…?それって…──────」
「しー……」
光秀が口にしたそれについて問おうとした瞬間、彼が言葉の先を遮るように人差し指を自らの口元へあてがった。はっとして片手で自らの口を塞いだ凪にも、微かに聞こえて来る複数の足音が、近くの砂浜を踏みしめている。敵が傍に居ると察して塞いでいた片手を下ろし、光秀を見上げた。あてがっていた人差し指を下げ、それでも尚、余裕めいた表情を浮かべている男は、そのまま板の陰から様子を窺う。