❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
差し出されたスプーンを見て、光秀が可笑しそうに告げる。むきになった、というよりも、まるで試すような物言いをする彼女へ、仕返しとばかりに言い返すと、片手で凪の手首をすくうように引き寄せて、瞼を伏せつつそれを口へ含んだ。冷たさと甘さの後に、柔らかな果肉の食感が追いかけて来る。ふと、正面に居る彼女を見た。艶々とした柔らかなそうな唇がすぐ目の前にあるというのに、それを味わえないと言うのは少々惜しい。
「……どうです?やっぱり、一番は変わりませんか?」
「聞くまでもないというのに、言わせたがるとは仕方の無い娘だ」
「だって、いつも私ばっかりだから、たまには光秀さんにもそういうの、味わって貰おうかなと思って」
凪が悪戯っぽく問う。喉を滑り落ちるひんやりしたものの感覚と甘さの名残を感じながら、光秀が肩を竦めた。いつも桃の事でからかわれるのは凪ばかりだ。今更目の前の男がそれで照れるなど、そんな事は微塵も思っていないが、負けん気だけはある凪としては問わずには居られない。自らをじっと見つめて来る黒々した眸を見つめ返し、男が吐息混じりに笑いを零す。そうして彼女の手から優しくスプーンを取り上げると、溶けて水っぽくなって来たかき氷を蜜と果肉ごとすくい、凪へ差し出した。
「では、お前も確かめてみるといい。それで答え合わせといこう」
答えなど聞かずとも分かっているくせに、敢えてそんな事を言う男へ、凪がしてやられた感にむっと眉根を寄せる。引き結んだ唇をそっと開き、蜜を頬張る。冷たくて甘くて、すぐに溶ける氷や柔らかで瑞々しい果実よりも、光秀が熱と共にくれた果物の方が、余程甘くて美味しかったと知らしめられた。喉を滑るひんやりした冷たさを忘れてしまう程の熱に、凪がちらりと光秀を見て、目元をいっそう染める。言葉など無くとも、彼女の表情を見るだけですべて察する事の出来た男は、互いに同じ答えを得ている事へ幸福を感じ、瞼を伏せて笑ったのだった。